特定技能外国人の給与相場と昇給管理の実務

特定技能外国人を採用するうえで、給与水準の設定と昇給管理は最も重要な実務のひとつです。在留資格の要件として「日本人同等以上の賃金」が義務付けられており、これを満たさない場合は在留更新の不許可や受入れ停止といった重大なリスクが生じます。本記事では、給与の法的根拠から分野別相場、比較表の作り方、賃金台帳の整備、在留更新での活用実務まで、体系的に解説します。

特定技能外国人の給与に関する基本原則

「日本人同等以上」の賃金規定

特定技能外国人に対しては、同等の業務に従事する日本人労働者と比較して不合理に低い賃金を支払ってはならないという原則が定められています。これは単なる努力義務ではなく、在留資格申請・更新の審査において厳格にチェックされる法定要件です。「同等以上」とは、同じ職場・同じ業務内容・同程度の経験年数の日本人と比較して、賃金が同等かそれ以上であることを指します。基本給のみならず、各種手当・賞与を含む総額での比較が原則ですが、実務上は基本給での比較が中心となります。

義務の根拠(出入国管理及び難民認定法・特定技能雇用契約基準省令)

この賃金規定の根拠となる法令は複数にわたります。まず、出入国管理及び難民認定法(入管法)第2条の5および関連省令において、特定技能の在留資格を有する外国人を雇用する際の要件が定められています。具体的には「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令」(以下、基準省令)の第2条において、報酬が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上でなければならないことが明記されています。この基準を満たさない雇用契約は、在留資格の許可要件を充足しないものと判断されます。

違反した場合のリスク

日本人同等以上の賃金要件を満たさない場合、受入れ機関(企業)には以下のようなリスクが生じます。

  • 在留更新の不許可:更新審査で賃金の不合理な低下が発覚した場合、更新が許可されません。
  • 特定技能の受入れ停止:出入国在留管理庁への定期届出や調査の結果、重大な違反が認められた場合、受入れ資格を停止されることがあります。
  • 行政指導・改善命令:法令違反として指導を受け、改善が見られない場合は公表されるケースもあります。
  • 労働基準法違反の併発:最低賃金を下回る場合は労働基準法違反にもなり、罰則の対象となります。

注意:「特定技能だから最低賃金ギリギリで良い」という認識は誤りです。同等の日本人が実際に採用されている水準が判断基準となるため、自社の日本人従業員の給与水準の把握が不可欠です。

分野別・地域別の給与相場目安

特定技能の産業分野について

特定技能制度は当初14分野で開始されましたが、分野の統廃合等を経て現在は12の特定産業分野が設定されています(介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業)。各分野は分野別協議会を設置しており、協議会への加入が受入れ機関に義務付けられています。給与水準については協議会の議論や分野所管省庁の指針も参考になります。

代表的な分野の給与水準目安

以下の表は、主要分野における月額給与(基本給+固定手当)の目安です。地域や企業規模、経験年数によって幅があります。あくまで参考値であり、自社の日本人同等者の賃金水準を優先して設定してください。

特定産業分野 月額給与目安(総支給) 備考
製造業(素形材・産業機械・電気電子) 18万〜24万円 工場立地地域の最低賃金が基準
飲食料品製造業 18万〜22万円 食品加工・惣菜製造等を含む
外食業 19万〜25万円 都市部ほど水準が高い傾向
建設業 22万〜30万円 職種・技能レベルによる差が大きい
宿泊業 20万〜27万円 観光地・都市部でやや高め
農業 18万〜22万円 季節変動・繁閑差に注意
介護 21万〜27万円 処遇改善加算の活用が重要
ビルクリーニング 18万〜22万円 夜間・休日割増を含む場合あり

地域最低賃金との関係

特定技能外国人の給与は、就業地の地域別最低賃金を必ず上回る必要があります。東京都(2025年度:1,163円)や神奈川県等の最低賃金が高い地域では、月額換算で20万円超が実質的な下限となるケースがあります。一方で地方の農業分野等では最低賃金ラインに近い水準も見られますが、日本人同等者比較が優先されるため、地域の農業従事者の平均賃金との照合が必要です。最低賃金はあくまで下限であり、日本人同等以上という別の要件が常に重なって適用されることに注意が必要です。

日本人同等者との比較方法

「同等者比較表」の作成方法

在留申請・更新時に提出が求められることのある同等者比較表(または賃金の同等性を示す書類)は、特定技能外国人と比較対象となる日本人従業員の情報を対比させた書類です。作成の基本手順は次の通りです。

  1. 比較対象の日本人従業員を特定する(同一職種・同等の業務内容・近い経験年数の者)
  2. 両者の基本給・各種手当・月額総支給額を記載する
  3. 特定技能外国人の給与が比較対象と同等以上であることを確認・記載する
  4. 作成日・作成者(会社名・担当者名)を明記し、会社印を押印する

書式に特定の様式があるわけではありませんが、出入国在留管理庁が公開しているガイドラインの書式参考例を活用することをお勧めします。比較対象者が複数いる場合は、最も近い経験年数の者を選ぶのが一般的です。

比較できる日本人がいない場合の対応

中小企業や特殊な職種の場合、社内に比較できる日本人従業員がいないケースも少なくありません。その場合は以下の方法で対応します。

  • ハローワークの求人票:同様の職種・地域の求人票の賃金欄を参照し、相場水準を示す資料として活用します。
  • 賃金センサス(賃金構造基本統計調査):厚生労働省が公表する賃金センサスで、職種・産業・経験年数別の平均賃金を確認します。
  • 業界団体の賃金調査:特定産業分野の協議会や業界団体が公表する賃金調査も参考資料として有効です。

これらの外部データを使って「同一職種・同等経験年数の一般的な市場水準と比較して同等以上である」ことを示す書類を作成します。

実務的なポイントと注意事項

同等者比較における実務上の注意点として、時間外手当・深夜手当などの法定割増賃金は比較対象外とすることが一般的です。固定残業代(みなし残業)が含まれている場合は、基本給部分と固定残業代部分を明確に区分して記載する必要があります。また、比較する日本人従業員の賃金が低い場合でも、その水準が不当に抑制されたものでないことを説明できるようにしておくことが重要です。

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昇給管理の実務と記録の残し方

賃金台帳の整備(法定記載事項)

賃金台帳は労働基準法第108条に基づき、事業主が必ず作成・備え付けなければならない法定帳簿です。特定技能外国人についても例外なく適用され、在留更新申請時の主要書類となります。賃金台帳には以下の事項を記載する必要があります。

記載事項 内容・留意点
氏名 外国人の場合は本名(パスポート表記に準じた漢字・カタカナ)
性別
賃金計算期間 締日・支払日を明記
労働日数・労働時間数 時間外・休日・深夜労働時間数も別途記載
基本給・手当等の種類と金額 固定残業代を含む場合は内訳を明示
控除項目と金額 社会保険料・税金等の控除内訳
実際に支払われた賃金の総額 手取り額ではなく総支給額と控除後の実支給額の両方

賃金台帳は最後の記載をした日から3年間保存する義務があります(2020年4月施行の改正労働基準法により、将来的には5年保存が努力義務となっています)。在留更新時に過去1年分の提出を求められるため、月次で整然と管理することが重要です。

昇給タイミングと管理方法

特定技能外国人の昇給を検討すべき主なタイミングは以下の通りです。

  • 入社1周年時:試用期間終了後や習熟度向上を踏まえた定期昇給として、多くの企業が採用しています。
  • 在留期間更新の3〜6ヶ月前:更新申請書類に新賃金が反映されるよう、事前の見直しが推奨されます。
  • 地域最低賃金改定時(毎年10月頃):最低賃金の引き上げに伴い、全従業員の給与見直しと合わせて対応します。
  • 日本人従業員に一斉昇給があった時:日本人同等以上の原則から、特定技能外国人も同様の昇給を検討する必要があります。

昇給の根拠を残す重要性

昇給を実施した際は、その根拠を書面で残しておくことが重要です。具体的には、①昇給の理由(勤続年数・業績・スキルアップ等)、②改訂前後の給与額、③新しい労働条件通知書の交付という3点セットで記録を整備します。昇給の根拠が明確であることは、在留更新審査や労働基準監督署の調査への対応でも有効に機能します。また、昇給後の賃金台帳と労働条件通知書の記載内容が一致していることを必ず確認してください。不整合がある場合、審査で問い合わせを受ける原因となります。

実務ポイント:昇給後は速やかに新たな「労働条件通知書」を作成し、外国人本人に交付したうえで、受領確認署名をもらい会社でも控えを保管してください。

在留更新申請における給与書類の活用

更新時に提出が求められる書類一覧

特定技能1号の在留期間は最長1年(分野により最長3年・5年のケースもあり)であり、更新申請には多くの書類が必要です。給与・労働条件に関連する主な書類は以下の通りです。

書類名 内容・期間 留意点
賃金台帳(写し) 直近1年分 月別に整理・全従業員分でも可
給与明細(写し) 直近数ヶ月分 本人への交付済みであること
源泉徴収票(写し) 前年度分 所得額と台帳の整合確認
労働条件通知書(写し) 現行の最新版 基本給・勤務地・業務内容等を明記
同等者比較書 申請時点の最新版 日本人同等以上を示す書類
雇用条件書(特定技能様式) 申請書類セットの一部 出入国在留管理庁の公式様式を使用

不整合がある場合の影響

在留更新審査において、賃金台帳・給与明細・源泉徴収票・労働条件通知書の間に金額の不一致がある場合、審査が長引いたり、追加説明・書類の再提出を求められたりします。最悪の場合、不整合が意図的な情報操作と判断され、不許可になるリスクもあります。特に固定残業代を設定している場合は、各書類での表記方法を統一することが重要です。申請前に専門家(行政書士等)によるチェックを受けることをお勧めします。

事前チェックリスト

在留更新申請の準備として、給与書類について以下のチェックリストを活用してください。

  • 賃金台帳が月別・氏名別に整理され、直近1年分が揃っているか
  • 賃金台帳と給与明細の支給額が一致しているか
  • 源泉徴収票の支払金額が賃金台帳の年間合計と整合しているか
  • 現行の労働条件通知書に最新の給与額が反映されているか
  • 昇給があった場合、新しい労働条件通知書を交付・保管しているか
  • 同等者比較書が最新の情報で作成されているか
  • 地域最低賃金以上かつ日本人同等以上の賃金が維持されているか

よくある質問

特定技能外国人の給与は日本人と同じでないといけませんか?
「同等以上」の賃金を支払う義務があります。特定技能の在留資格要件として、同等の業務に従事する日本人労働者と比較して不合理に低い賃金は認められません。具体的には同一業務・同一経験年数の日本人の平均賃金と比較して確認します。出入国在留管理庁の審査では就労先の賃金台帳・同等者比較表等の提出が求められる場合があります。
特定技能の給与はいくらくらいが目安ですか?
分野・地域・企業規模により異なりますが、製造・食品加工・農業分野の月額は概ね18万〜22万円程度が多く見られます。飲食料品製造業では最低賃金を上回る水準で、特定産業分野の協議会等でも議論されています。宿泊・外食・建設等では22万〜28万円程度のケースもあります。重要なのは実際の「同等者比較」であり、特定の数字より自社の同等日本人従業員の水準が基準です。
在留更新時に給与関係で必要な書類は何ですか?
主に①直近の賃金台帳(過去1年分)、②給与明細(本人に交付済みのもの)、③源泉徴収票(前年度分)、④同等者比較書(自社の日本人同等労働者の賃金と比較した書類)が求められます。出入国在留管理庁の様式を利用し、月別・氏名別に整理して管理することをお勧めします。
昇給した場合、何か届出が必要ですか?
給与の変更自体に随時届出は不要ですが、雇用条件通知書(労働条件通知書)に記載された基本給が変更される場合は、新たな労働条件通知書を作成・交付して保管することが重要です。また、賃金台帳は法令上3年間の保存義務があります(2020年4月以降の分は5年保存が努力義務)。更新申請時に求められる賃金履歴と一致している必要があります。

まとめ

特定技能外国人の給与管理は、在留資格の維持・更新に直結する重要な実務です。本記事のポイントを整理します。

  • 日本人同等以上の賃金は法定義務であり、入管審査の重要チェック項目です。
  • 給与相場は分野・地域によって異なりますが、自社の日本人同等者との比較が最も重要な基準です。
  • 社内に比較対象がいない場合は、ハローワーク求人票や賃金センサスを活用した客観的な根拠を準備します。
  • 賃金台帳・給与明細・源泉徴収票・労働条件通知書の書類間の整合性を常に確認してください。
  • 昇給の際は新しい労働条件通知書を交付し、昇給根拠を書面で残す習慣をつけましょう。
  • 在留更新の3〜6ヶ月前から書類の確認・整備を開始することをお勧めします。

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。最新の法令・省令については出入国在留管理庁の公式情報をご確認ください。