同等報酬要件の法的な位置づけ
特定技能で外国人を雇用する場合、雇用契約そのものが法令上の基準に適合していなければ許可は得られません。根拠は入管法第2条の5第1項で、特定技能雇用契約は活動内容とこれに対する報酬などが適切に定められているものとして「法務省令で定める基準に適合するもの」でなければならないと規定されています。この法務省令が「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令」(平成31年法務省令第5号。以下「特定技能基準省令」)で、報酬に関する基準は同省令第1条第1項に2つ置かれています。
| 号 | 条文(特定技能基準省令第1条第1項) |
|---|---|
| 第3号 | 外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること。 |
| 第4号 | 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをしていないこと。 |
入管法第2条の5第2項は、この省令基準に差別的取扱いをしてはならないことを含めるよう法律レベルで求めています。同等報酬は運用上の目安ではなく、契約が基準に適合するかどうかを直接左右する審査事項です。運用要領は、ここでいう福利厚生施設として社員住宅、診療施設、保養所、体育館などを例示しています。あわせて押さえたいのが、同項柱書が「労働基準法その他の労働に関する法令の規定に適合していること」も求めている点です。最低賃金の遵守は入口の条件であり、同等報酬はそれとは別枠で判断されます。
出入国在留管理庁の「特定技能制度に関するQ&A」でも、支払うべき給与水準について「日本人が同等の業務に従事する場合の報酬額と同等以上であることが求められます」と回答されています。
「報酬」に含まれるもの・含まれないもの
比較の前提として、何を「報酬」として数えるのかを確定させる必要があります。運用要領は「報酬」を「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」と定義し、一般的に通勤手当、扶養手当、住宅手当等の実費弁償の性格を有するもの(課税対象となるものは除く。)は含まれないとしています。
この点を取り違えると比較そのものが成立しません。基本給を抑えたうえで住宅手当や通勤手当を厚く積み、総支給額だけを日本人従業員とそろえても、実費弁償に当たる手当は判断から外れるため、労務の対価部分では差が残ります。
括弧書きのとおり、課税対象となるものは除外の対象外です。給与規程上の位置づけと課税処理を突き合わせ、どの手当が労務の対価に当たるのかを整理したうえで比較表を作成してください。
参考様式第1-4号の記載構造を分解する
運用要領が報酬等に関する基準の【確認対象の書類】として挙げるのは、「特定技能外国人の報酬に関する説明書」(参考様式第1-4号)と「雇用条件書の写し」(参考様式第1-6号)の2点です。前者は3つのブロックで構成されています。
氏名(在留カード、所持していない場合は旅券と同一の表記)/役職、職務内容、責任の程度/年齢、性別及び経験年数/報酬(月給または時間給)/その他
役職、職務内容、責任の程度/年齢、性別及び経験年数/報酬/賃金規程の有無および規程に基づき同等の日本人労働者に支払われるべき報酬/同等以上であると考える理由/その他
最も近い職務を担う日本人労働者の職務内容や責任の程度/年齢、性別及び経験年数/報酬/賃金規程の有無/同等以上であると考える理由/その他
3の欄は、様式の案内によれば「報酬額が同等の日本人労働者がおらず、報酬額が大きく異なる日本人労働者がいる場合」に記載するもので、2の欄を記載している場合は記載不要です。賃金規程がなく、日本人労働者も雇用していない場合、つまり2・3のいずれも記載が困難な場合は、任意の様式で、申請人の報酬額を決定した方法や経緯等について説明した文書を提出する取扱いになります。
記載上は、経験年数に申請人に従事させる業務に係る経験年数を書くこと、賃金規程を作成している場合は必ず「有」を丸印で囲み規程を参考資料として添付すること、3の欄では申請人と比べて具体的にどのような差異があるのかも詳細に記載することが指示されています。報酬欄は月給または時間給のいずれかで統一し、それ以外の給与形態は換算して記載します。
末尾には「上記の記載内容は、事実と相違ありません」との文言とともに、作成日、特定技能所属機関の名称、作成責任者の役職・氏名を記す欄があります。賃金体系を決定した責任者の確認を経て提出する書式です。
入管庁が比較対象を選ぶ4段階の判断順序
受入企業から多く寄せられるのが「同じ業務に従事する日本人が社内にいない」というケースです。この点について、出入国在留管理庁のQ&Aは判断の順序を明示しています。
| 状況 | 判断の方法 |
|---|---|
| 賃金規定がある | 賃金規定に基づいて判断する |
| 賃金規定がなく、同等の業務に従事する日本人労働者がいる | 当該日本人労働者と比較して報酬の同等性を判断する |
| 賃金規定がなく、同等業務の日本人はいないが、近い業務等を担う日本人労働者がいる | 当該日本人労働者の役職や責任の程度を踏まえて報酬差が合理的に説明されているか、年齢および経験年数を比較しても報酬額が妥当かを検討して判断する |
| 賃金規定がなく、比較対象の日本人もいない | 雇用契約書記載の報酬額と、当局が保有する近隣同業他社で同等業務に従事する同等程度の経験を有する特定技能外国人の報酬額を比較する |
注目すべきは最後の段階です。企業が用意した資料ではなく当局が保有するデータとの照合になるため、自社で説明を組み立てられる余地が最も小さくなります。賃金規程の整備は、この段階から上位の段階へ移るための現実的な手段です。
運用要領も、同程度の技能等を有する日本人労働者がいる場合には、当該外国人が任される職務内容やその職務に対する責任の程度が当該日本人労働者と同等であることを説明したうえで、当該日本人労働者に対する報酬の額と同等以上であることを説明する必要があるとしています。「職務の同等性」と「報酬の同等以上」の二段構えが基本形です。
運用要領は「これにより、外国人労働者と比較した際に、日本人労働者に不当に安い賃金を支払う結果とならないように留意してください」とも述べています。日本人従業員の賃金を引き下げて形式的に同等性を作り出す運用は、要件を満たす方法として想定されていません。
賃金規程が最も強い立証手段になる理由
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成・届出を義務づけ、同条第2号で「賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を必ず記載すべき事項としています。賃金規程は、この部分を独立した規程として整備したものです。
従業員10人未満の事業場に作成義務はありません。ただし同等報酬要件の立証という観点では、規程の有無が前節の判断経路そのものを変えます。等級・職種・経験年数と賃金の対応関係が文書化されていれば、報酬額をその表に当てはめて説明でき、比較対象となる日本人従業員が社内にいるかどうかに左右されにくくなります。
説明資料として機能させるには、職種・等級ごとの基本給レンジと等級の決定要素、経験年数や保有資格の反映方法、手当の種類と支給条件(労務の対価か実費弁償かが判別できる書き方)、昇給の時期と決定基準を規程に落とし込みます。昇給基準を明記しておくと、後述する定期届出で報告する昇給率とも整合が取りやすくなります。
参考様式第1-4号は、賃金規程を作成している場合に「有」を選択したうえで規程そのものを参考資料として添付することを求めています。存在を書面上で主張するだけでは足りません。
技能実習修了者・留学生を採用する場合の水準設定
判断を誤りやすいのが、自社の技能実習生をそのまま特定技能へ移行させるケースです。運用要領は、特定技能外国人について技能実習2号修了者であればおおむね3年間、技能実習3号修了者であればおおむね5年間、日本に在留し技能実習を修了した者であることから、おおむね3年程度または5年程度の経験者として取り扱う必要があるとしています。
そのうえで、技能実習生として受け入れたことがある者を雇用する場合には、技能実習2号修了時の報酬額を上回ることはもとより、実際に3年程度または5年程度の経験を積んだ日本人の技能者に支払っている報酬額とも比較し、適切に設定する必要があると明記しています。Q&Aでも、1号特定技能外国人は技能実習2号を修了した外国人と同程度の技能水準であることから、少なくとも技能実習2号の給与水準を上回ることが想定されると示されています。
担当作業が同じであることを理由に報酬を据え置く運用は、上記の取扱いと噛み合いません。参考様式第1-4号の経験年数欄にも実習期間を踏まえた年数を記載するため、経験年数と報酬額の対応関係を社内の日本人従業員と比べて説明できるか、移行前に検証しておく必要があります。
留学生等であった者や、他の受入れ機関で受け入れられていた技能実習生を新たに雇用する場合は、雇用する特定技能所属機関の就業規則等に従って賃金を適切に設定するものとされています。
受入れ後も報酬は毎年チェックされる
同等報酬要件は申請時の一回限りの審査で終わりません。入管法第19条の18第2項は、特定技能所属機関に対し、受け入れている特定技能外国人の氏名およびその活動の内容その他の法務省令で定める事項の届出を義務づけています。入管法施行規則第19条の18第3項により、この届出は毎年5月31日までに、その年の前年の4月1日からその年の3月31日までの期間の状況について行います。運用要領が挙げる主な届出事項には、報酬に直結する項目が並びます。
- 実労働日数、所定内実労働時間数、超過実労働時間数
- きまって支給する現金給与額(超過労働給与額を含む)と、そのうちの超過労働給与額・通勤手当・精皆勤手当・家族手当
- 対象期間中の賞与、期末手当等特別給与額
- 控除額(食費、居住費(水道・光熱費含む)、税・社会保険料、その他)
- 昇給率、支援の実施状況
申請時に説明した報酬水準と毎年届け出る実績に説明のつかない差があれば、確認を求められることがあります。雇用条件書の内容と実際の賃金台帳・給与明細を一致させておくことが前提です。なお預金口座等への振込み以外の方法で報酬を支払った場合は、報酬支払証明書(参考様式第5-7号)の提出が必要になります。
行政側の関与手段も法定されています。出入国在留管理庁長官は必要な指導および助言を行い(入管法第19条の19)、報告や帳簿書類の提出・提示を命じ、立入検査を行うこともできます(同法第19条の20)。基準が確保されていないと認めるときは期限を定めた改善命令を出すことができ、その旨は公示されます(同法第19条の21)。
- 改善命令に違反した者は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(入管法第71条の3)
- 第19条の18第1項第1号・第2項第1号の届出をせず、または虚偽の届出をした者、報告・帳簿書類の提出等を拒み、立入検査を拒み妨げ忌避した者は30万円以下の罰金(同法第71条の4)
- それ以外の号に係る届出義務違反は10万円以下の過料(同法第77条の2第1号)
- 第71条の3・第71条の4には両罰規定があり、行為者のほか法人にも罰金刑が科されます(同法第76条の2)
提出書類の省略が認められる場合と残る責任
運用要領は、一定の基準を満たす特定技能所属機関について、適格性に関する書類(適格性書類)に加えて、特定技能外国人の報酬に関する説明書(参考様式第1-4号)および雇用の経緯に係る説明書(参考様式第1-16号)の提出を省略できるとしています。一定の基準とは次のいずれかです。
- (1)同一年度内に既に特定技能外国人を受け入れていること
- (2)①過去3年間に指導勧告書の交付または改善命令処分を受けておらず、②在留諸申請をオンライン申請、各種届出を電子届出で行い、かつ③一定の実績があり、適正な受入れを行うことが見込まれる機関であること
③に該当するのは、上場企業、保険業を営む相互会社、高度専門職省令上のイノベーション創出企業、一定の条件を満たす企業等、前年分の給与所得の源泉徴収税額が1,000万円以上ある団体・個人、申請時点で3年間の継続した受入れ実績を有し過去3年間に債務超過となっていない法人、の6類型のいずれかです。オンライン申請および電子届出の利用には事前の利用者登録が必要で、完了までに一定期間を要します。
省略が認められる場合でも、必要に応じて地方出入国在留管理局から提出を求められたときは提出しなければなりません。省略されるのは書類の提出であって、同等報酬要件そのものではありません。求められた時点で説明資料を組み立てられる状態を社内で保っておく必要があります。
よくある質問
まとめ
同等報酬は審査事項です。根拠は入管法第2条の5第1項と特定技能基準省令第1条第1項第3号にあり、同項第4号の差別的取扱いの禁止と一体で運用されます。同項柱書が労働関係法令への適合も求めているため、最低賃金の遵守は前提条件であり、同等報酬はそれとは別枠で判断されます。
比較対象は「報酬」の定義から確定します。運用要領は報酬を「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」とし、実費弁償の性格を有する通勤手当・扶養手当・住宅手当等(課税対象となるものは除く。)を除いています。総支給額ではなく労務の対価部分での比較が出発点です。
説明の主戦場は参考様式第1-4号です。比較対象となる日本人労働者がいる場合は職務の同等性と報酬の同等以上を二段構えで説明し、いない場合は最も近い職務との差異を詳細に記載します。賃金規定がないまま比較対象の日本人もいなければ、当局が保有するデータとの照合という企業側の裁量が最も小さい経路に入るため、労働基準法第89条第2号の記載事項をベースに等級・経験年数・手当・昇給基準を文書化しておくことが備えになります。
受入れ後の継続管理まで含めて設計してください。技能実習修了者はおおむね3年または5年の経験者として扱う必要があり、毎年5月31日期限の定期届出では給与額の内訳や昇給率まで報告します。在留資格申請や支援計画の作成といった専門的手続は、TGPと連携する行政書士法人Treeが対応します(出入国在留管理庁への申請取次を含む行政書士業務は行政書士法人Treeが担い、TGP自体が行うものではありません)。
本記事は現時点(2026年8月)の出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」(令和8年4月)、同庁公表のQ&A、入管法および特定技能基準省令等の公表内容に基づき、特定技能の同等報酬要件について一般的な情報を整理したものです。制度・基準・運用は改正される場合があり、個別事案への適用は条件により異なります。最新かつ正確な取扱いは出入国在留管理庁の公表資料および専門家にご確認ください。