日本の造船・舶用工業は世界市場でシェア約2割を占める基幹産業ですが、高齢化と若年層離れにより慢性的な人手不足に直面しています。国土交通省は2019年に特定技能「造船・舶用工業」を新設し、2023年6月9日の閣議決定で溶接以外の区分も特定技能2号の対象に追加して、長期就労による熟練人材の確保を可能にしました(溶接区分は従来から2号対象)。
制度創設時は溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立ての6区分でしたが、令和6年(2024年)3月29日の閣議決定で「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分へと統合・再編されました(運用要領は令和6年8月5日一部改正)。本記事では、新旧区分の対応関係、試験制度(一般財団法人日本海事協会=ClassNK実施)、瀬戸内海沿岸の受入れ動向、JIS溶接資格との連動性まで、造船所・舶用機器メーカーの人事担当者が押さえるべきポイントを解説します。
この記事で解説するポイント。
- 旧6区分から現行3区分への再編内容と業務範囲
- 国土交通省所管・ClassNK実施の試験制度(学科・実技)
- 瀬戸内海沿岸を中心とした集中地域と給与相場
- JIS溶接資格保有者の活用と特定技能2号への移行
外国人有料職業紹介(許可番号13-ユ-317879)を専門とし、グループ内に入管業務専門の行政書士法人Treeを持つTreeGlobalPartnersが解説します。
造船・舶用工業の人手不足と特定技能の位置づけ
日本の造船業は新造船建造量で世界シェア約20%を維持し、中国・韓国とともに世界三大造船国を形成しています。舶用工業(エンジン・推進装置・航海機器等)も世界シェア約30%を占める高い競争力を有していますが、現場の人材確保は深刻な状況です。
造船業の従業員数は1980年代の約18万人から現在は約8万人へと半減し、平均年齢も50歳近くに達しています。技能の継承と現場稼働率の維持の双方の観点から、特定技能制度による外国人材の確保は喫緊の課題となっています。
国土交通省は第2期(令和6年度〜令和10年度/2024〜2028年度)の1号受入れ見込数を5年間で最大36,000人と設定しており、第1期(5年間で1.3万人)から大幅に拡大しました。2023年6月9日には溶接以外の区分も特定技能2号の対象に追加され、長期育成による熟練工確保への道筋が整備されています。
業務区分の概要|旧6区分から現行3区分へ
制度創設時(2019年)の業務区分は溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立ての6区分でしたが、令和6年(2024年)3月29日閣議決定により3区分へ統合・再編されました(運用要領は令和6年8月5日一部改正)。現行区分と旧区分の対応関係は以下のとおりです。
| 現行区分(令和6年3月〜) | 包含される旧区分 | 主な業務内容 |
|---|---|---|
| 1. 造船 | 溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立て | 船体・船殻の建造工程全般 |
| 2. 舶用機械 | 機械加工・仕上げ・溶接・塗装等 | 主機関・補機・推進装置の製造 |
| 3. 舶用電気電子機器 | 電気機器組立て・電子機器組立て等 | 航海計器・通信機器・制御盤の製造 |
新区分では1人の特定技能外国人が複数作業を横断的に担当できるよう柔軟化されています。たとえば造船区分では、溶接作業者が状況に応じて鉄工や仕上げ作業も担えるため、現場の人員配置の自由度が向上しました。
ただし、雇用契約上は「主たる業務」を明確にし、受入計画書にも記載する必要があります。最新の業務範囲は国土交通省告示および運用要領で必ず確認してください。
各区分の業務内容詳細
造船区分
船体ブロックの製作・組立・艤装に関わる業務全般が対象です。具体的には鋼板の切断・曲げ加工(鉄工)、ブロック同士の溶接接合、防食塗装、船内配管・甲板機器の取付(仕上げ)が含まれます。造船所の中核工程であり、特定技能外国人の最大の受入区分です。
舶用機械区分
船舶用ディーゼルエンジン、ボイラ、ポンプ、プロペラ等の製造に関わる業務。ガスケット組付け・部品精密加工・組立・性能検査などが中心で、舶用機械メーカー(ジャパンエンジンコーポレーション、三井E&Sマシナリー等)の工場が主な就業先となります。
舶用電気電子機器区分
レーダー・GPS・自動操舵装置・通信機器・配電盤等の組立・配線・検査業務。舶用エレクトロニクスメーカー(古野電気、日本無線、東京計器等)の工場で従事します。電子部品実装の経験者は即戦力として評価される傾向です。
受入機関の要件
造船・舶用工業の特定技能外国人を受け入れる企業は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 国土交通省による「確認」を受けた事業者であること(造船・舶用工業確認証の取得)
- 過去5年以内に同分野の業務で1年以上の実務経験を有する常勤職員を配置していること
- 直接雇用形態であること(派遣不可)
- 協議会(造船・舶用工業分野特定技能協議会)への加入
- 入管法令・労働関係法令の遵守と過去5年以内の重大な違反がないこと
確認証の申請は国土交通省海事局船舶産業課に対して行います。雇用契約締結後・在留資格申請前に確認証を取得しておく必要があり、確認証なしでは在留資格の許可が下りません。
試験制度(学科・実技)
造船・舶用工業の技能評価試験は一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が指定機関として実施しています。学科試験と実技試験の両方に合格する必要があります。試験は実技区分ごとに「溶接・塗装・鉄工・機械加工・仕上げ・電気機器組立て」の旧6区分名で運用されており、現行の3区分(造船/舶用機械/舶用電気電子機器)の中でいずれかの実技試験に合格すれば該当区分での就労が可能です。2号試験は溶接・塗装・鉄工の各実技で実施されています。
| 試験項目 | 内容 | 合格基準 |
|---|---|---|
| 学科試験 | 区分別の専門知識・安全衛生・図面読解 | 得点の60%以上 |
| 実技試験 | 判断試験+作業試験(造船区分は溶接・鉄工等) | 得点の60%以上 |
| 日本語試験 | JLPT N4以上 または JFT-Basic A2以上 | 各試験の合格基準 |
試験は日本国内のほか、フィリピン・インドネシア・ベトナム等で実施されています。技能実習2号「造船」を良好に修了した場合は、技能試験・日本語試験ともに免除となります。
給与相場と地域別動向
造船・舶用工業の特定技能外国人の給与水準は、地域・職種・経験によって幅がありますが、概ね以下のレンジです。
| エリア | 月給目安 | 主要拠点 |
|---|---|---|
| 愛媛県(今治・西条) | 18〜23万円 | 今治造船グループ・新来島どっく |
| 広島県(呉・尾道) | 19〜24万円 | JMU呉・常石造船・ツネイシHD |
| 長崎県(長崎・佐世保) | 19〜23万円 | 三菱造船・大島造船所・佐世保重工 |
| 岡山県・香川県 | 18〜22万円 | 三井E&S・四国ドック |
| 関東(舶用機器メーカー) | 20〜26万円 | 古野電気・日本無線・三菱重工 |
原則として同一労働同一賃金が求められるため、日本人同等職種との均衡が必須です。残業手当・住宅手当・寒冷地手当等の処遇も日本人と同水準にする必要があります。
安全衛生教育と造船特有の労災対策
造船業は労働災害発生率が製造業平均の約2倍と高く、安全衛生教育の徹底が不可欠です。高所作業(ブロック上での溶接)、密閉空間作業(タンク内塗装)、重量物クレーン取扱い、ガス溶断作業など、リスクの高い作業が日常的に発生します。
特定技能外国人にも、雇入れ時の安全衛生教育(労働安全衛生法第59条)と、危険有害業務に関する特別教育の修了が義務付けられています。具体的には以下が必要です。
- アーク溶接特別教育(造船区分の溶接従事者)
- 有機溶剤・特定化学物質取扱い教育(塗装従事者)
- 玉掛け技能講習(クレーン補助業務)
- 酸素欠乏危険作業特別教育(タンク内作業)
母国語による教材・通訳付き講習の準備が、定着率と労災予防の双方に直結します。
JIS溶接資格との関係
造船区分の溶接業務では、JIS Z 3801(手溶接技術検定)等のJIS溶接資格が即戦力指標として重視されます。実技試験ではJISに準拠した基本姿勢(下向・横向・立向・上向)の溶接が課されるため、母国で日本式の溶接訓練を受けた候補者は実技合格率が高い傾向にあります。
フィリピン・ベトナム・インドネシアの送出機関では、JIS資格取得を組み込んだ事前訓練プログラムを提供する例が増えています。採用時にJIS Z 3801(被覆アーク溶接)またはJIS Z 3841(半自動溶接)の保有を確認することで、配属後の戦力化期間を大幅に短縮できます。
社内の溶接技量検定にもスムーズに移行でき、賃金水準・配属先で優遇されるケースが多く見られます。
特定技能2号への移行
従来から溶接区分は特定技能2号の対象でしたが、2023年6月9日の閣議決定で溶接以外の区分(造船・舶用機械・舶用電気電子機器の各業務)も特定技能2号の対象に追加されました。1号で通算3年以上の実務経験を積み、2号評価試験に合格すれば移行可能です。
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算5年まで | 上限なし(更新可能) |
| 家族帯同 | 不可 | 可能(配偶者・子) |
| 義務的支援 | 必要(登録支援機関へ委託可) | 不要 |
| 求められる技能 | 相当程度の知識・経験 | 熟練した技能・班長クラス |
2号は単純な作業者ではなく、班長・チームリーダークラスの熟練工として位置付けられています。実務経験要件として、複数の作業員を指導・監督する経験が求められる点に注意が必要です。
主要造船所での受入事例の傾向
今治造船グループ・常石造船・JMU・三菱造船・大島造船所など大手造船所は、いずれも特定技能外国人の積極的受入れを進めています。受入れ傾向として以下の特徴が見られます。
- フィリピン・ベトナム・インドネシアからの受入れが中心
- 技能実習2号「造船」からの移行ルートが主流(試験免除)
- 協力会社(下請)を通じた受入れではなく、造船所本体での直接雇用が増加
- 初回受入れ後3〜5年で2号移行を見据えた育成プランを提示する企業が増加
- 社員寮の整備、母国語通訳の配置、家族呼寄せ支援などの定着策の強化
業界団体である日本造船工業会および日本舶用工業会も、加盟企業向けに特定技能受入れガイドラインを公表しています。
よくある質問
Q. 業務区分はどう変わりましたか?
A. 制度創設時(2019年)の6区分(溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立て)は、令和6年(2024年)3月29日閣議決定により「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編されました(運用要領は令和6年8月5日一部改正)。旧6区分の作業内容は新3区分の中に包含され、複数作業に横断的に従事できる柔軟な制度となっています。
Q. JIS溶接資格があれば有利ですか?
A. 造船区分の溶接業務ではJIS Z 3801等の資格保有者が即戦力として高く評価されます。実技試験ではJIS準拠の基本姿勢溶接が課されるため、母国でJIS資格を取得済みの候補者は実技合格率が高い傾向です。社内の溶接技量検定にもスムーズに移行でき、賃金や配属先で優遇されます。
Q. 派遣形態は可能ですか?
A. できません。造船・舶用工業を含む大半の特定技能分野では直接雇用のみが認められ、派遣形態は対象外です(例外は農業・漁業の一部)。造船所が必ず雇用契約を直接結ぶ必要があります。
Q. 特定技能2号への移行はいつから可能ですか?
A. 溶接区分は従来から2号対象でしたが、2023年6月9日の閣議決定で溶接以外の区分(造船・舶用機械・舶用電気電子機器の各業務)も2号の対象に追加されました。1号で通算3年以上の実務経験を積み、2号評価試験に合格すれば移行可能です。2号は在留期間の更新に上限がなく家族帯同も可能で、班長クラスの熟練人材として位置付けられます。
Q. 集中エリアはどこですか?
A. 瀬戸内海沿岸の広島・愛媛・岡山・香川と、長崎県(長崎・佐世保)に造船所が集中しており、特定技能外国人の受入れも同地域に集中しています。舶用電気電子機器は関東(東京・神奈川)の舶用機器メーカーでの受入れも一定数あります。
まとめ
造船・舶用工業分野の特定技能採用におけるポイントを整理します。
業務区分は令和6年(2024年)3月29日閣議決定で旧6区分から現行3区分(造船/舶用機械/舶用電気電子機器)へ統合され、1人の外国人が複数作業を横断的に担える柔軟な制度になりました。雇用契約・受入計画書には主たる業務を明確に記載する必要があります。
試験は国土交通省所管・一般財団法人日本海事協会(ClassNK)実施で、学科・実技ともに60%以上の得点が必要です。技能実習2号「造船」からの移行ルートでは試験が免除されるため、現在も主流の取得経路となっています。
受入れエリアは瀬戸内海沿岸(広島・愛媛・岡山・香川)と長崎に集中しています。JIS溶接資格保有者は造船区分での即戦力として評価が高く、採用時の選定基準として有効です。安全衛生教育(特別教育・特化則対応)の徹底は労災予防と定着率の双方に直結します。
2023年6月9日閣議決定による溶接以外の区分への特定技能2号対象追加により、長期育成による熟練工確保の道筋が分野全体で整いました。1号から2号への移行を見据えた育成プランを採用初期から提示することが、人材確保競争での差別化要因になります。
※ 本記事は2026年5月時点の国土交通省・関係団体の公開情報をもとに作成しています。業務区分の最新情報は国土交通省海事局告示および一般財団法人日本海事協会(ClassNK)の公式情報を確認してください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な採用計画については専門家にご相談ください。
※ 著者: Sakurai Yuki / 櫻井 勇輝(株式会社TreeGlobalPartners 代表取締役)