自動車整備業界では、若手整備士の減少と熟練整備士の高齢化が深刻化しています。整備士養成校への入学者は20年前と比べて半減し、整備要員の有効求人倍率は5倍を超える水準で推移しており、人材確保が経営の最大課題となっています。
こうした状況のなか、所管省庁である国土交通省のもとで運用されている特定技能「自動車整備」は、慢性的な整備士不足を補う実効的な選択肢として注目されています。2023年6月の閣議決定で特定技能2号の対象分野に追加され、国内における2号評価試験は2024年7月16日から開始。熟練人材として長期就労を見据えた採用が可能になりました。
この記事では、整備工場・ディーラー・販売店の経営者の方に向けて、以下のポイントを整理します。
- 特定技能「自動車整備」の業務範囲(日常点検・定期点検・特定整備(旧:分解整備))
- 受入機関の要件(認証工場・指定工場)と日整連の評価試験
- 自動車整備士国家資格との関係
- 特定技能2号への移行とディーラー系・独立系の活用パターン
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自動車整備業の人手不足と特定技能の活用
自動車整備業界は、構造的な人手不足に直面しています。経済産業省・国土交通省の統計でも、整備要員の有効求人倍率は全業種平均を大きく上回り、整備士養成校への入学者数も長期的に減少傾向です。電動化(EV)・先進安全装備(ADAS)の普及により整備技術は高度化する一方、若手の供給は細るというギャップが拡大しています。
整備士不足の数値的な背景
国土交通省「自動車整備業に関する実態調査」によれば、整備要員の平均年齢は上昇を続けており、特に地方では平均50歳を超える事業場も少なくありません。新車販売後の整備需要は安定的に存在する一方、整備士の引退と新規参入のギャップが各社の経営課題となっています。
特定技能「自動車整備」の受入見込数
政府は2024年3月の閣議決定で、自動車整備分野の2024〜2028年度の5年間の受入見込数を最大10,000人と再設定しました(従前は7,000人)。これは慢性的人材不足の深刻度を反映したもので、業界としてはこの枠を活用した戦略的採用が現実的な選択肢となっています。
特定技能制度が選ばれる理由
技能実習(育成就労へ移行予定)は「育成・移転」が建付けで、即戦力としての採用には制度上の限界がありました。特定技能は「即戦力人材の確保」を目的とする在留資格であり、評価試験合格者を直接雇用できる点が整備業界のニーズに合致しています。特に特定整備(旧:分解整備)に従事できる人材を確保できる点が、経営面で大きなインパクトを生みます。
業務範囲:日常点検・定期点検・特定整備
特定技能「自動車整備」で従事できる業務は、道路運送車両法に基づく整備のうち、以下の3つに定められています。対象車両は普通自動車・小型自動車・軽自動車です。なお2020年4月1日の道路運送車両法改正により、従来の「分解整備」は「特定整備」に名称変更され、ADAS(先進運転支援システム)等の電子制御装置整備が加えられています。
| 業務 | 主な内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 日常点検整備 | 使用者が日常的に行う点検(ブレーキ液量・タイヤ空気圧等) | 道路運送車両法47条の2 |
| 定期点検整備 | 1年・2年など定期的に行う法定点検 | 道路運送車両法48条 |
| 特定整備(旧:分解整備) | 原動機・動力伝達装置・走行装置・かじ取り装置・制動装置等の分解作業+自動運行装置・電子制御装置整備 | 道路運送車両法49条/施行規則3条 |
これに加えて、洗車・清掃・部品運搬といった付随業務にも従事できますが、本来業務に支障のない範囲に限定されます。日本人整備士と同等の業務に従事できる設計になっており、人材活用の幅は広い分野です。
電動車(EV/HV)整備への対応
近年は電動車(HV/PHV/EV)の普及に伴い、高電圧電気装置の取扱いに関する知識・スキルが現場で必須化しつつあります。EV整備では低圧電気取扱業務特別教育(労働安全衛生規則36条4号)の修了が必要なケースが多く、特定技能人材も日本人と同様に社内研修・特別教育の対象とする必要があります。さらに自動運行装置・ADAS搭載車のエーミング作業は、後述の電子制御装置整備認証を受けた事業場でなければ実施できません。
受入機関の要件(認証工場・指定工場)
特定技能「自動車整備」の受入機関には、道路運送車両法に基づく整備工場の認証が必要です。具体的には次のいずれかに該当する必要があります。
- 地方運輸局長の認証を受けた事業場(認証工場)
- 地方運輸局長の指定を受けた事業場(指定工場)
認証工場と指定工場の違い
| 項目 | 認証工場 | 指定工場 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 道路運送車両法78条 | 道路運送車両法94条の2 |
| 特定整備 | 可能 | 可能 |
| 完成検査 | 不可(運輸支局に持込み) | 自社で実施可能 |
| 整備主任者 | 必要(2級以上の整備士等) | 必要(同左) |
| 自動車検査員 | 不要 | 必要(1級または2級+研修) |
| 電子制御装置整備 | 別途認証が必要 | 別途認証が必要 |
指定工場は車検(継続検査)の完成検査を自社で行えるため、いわゆる「民間車検場」として運営されます。いずれの工場形態でも特定技能外国人の受入は可能ですが、整備主任者・自動車検査員等の有資格者は日本人整備士でカバーする必要がある点に留意が必要です。また2020年改正以降、ADAS搭載車のエーミング等を行う場合は電子制御装置整備の認証(経過措置は2024年3月31日で終了)が別途必要です。
必要な工具・設備への適応
特定整備認証事業場には、リフト・トルクレンチ・ホイールアライメントテスター等の指定工具・設備が義務付けられています。電子制御装置整備認証では、スキャンツール(外部診断機)、エーミングに必要な水準器・ターゲット等の設備も追加で必要です。特定技能人材を採用する際は、これら設備の操作マニュアル・SOPの多言語化/ピクトグラム整備が即戦力化の鍵となります。
試験制度(日整連実施)
特定技能「自動車整備」の取得ルートは、主に以下の2つです。
- 自動車整備分野特定技能評価試験+日本語試験(JFT-Basic または JLPT N4以上)に合格
- 技能実習2号「自動車整備」を良好に修了
自動車整備分野特定技能評価試験
試験を実施するのは、業界団体である一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(日整連/JASPA)です。1号試験は自動車整備士3級相当、2号試験は2級相当に設定され、学科試験と実技試験で構成されます。2号評価試験は2024年7月16日に国内で開始されました。
| 区分 | 1号試験 | 2号試験 |
|---|---|---|
| 水準 | 自動車整備士3級相当 | 自動車整備士2級相当(独立して作業判断・他者指導が可能) |
| 科目 | 学科・実技 | 学科・実技 |
| 受験要件 | 特になし(年齢17歳以上) | 道路運送車両法78条の認証事業場で3年以上の実務経験 |
| 実施方式 | 学科CBT・実技 | 学科CBT・実技 |
| 実施場所 | 国内・海外(フィリピン等) | 主に国内 |
| 合格基準 | 学科・実技それぞれ60%以上が目安 | 同左(より高い水準) |
試験案内・日程・申込みは日整連の公式サイトで公開されています。海外試験はフィリピンを中心に実施されており、国内試験と並行して定期的に開催される運用です。
自動車整備士資格との関係
日本の自動車整備士国家資格は3級・2級・1級の階層があり、認証工場・指定工場の人員要件にも関わります。特定技能の評価試験は3級相当の水準であり、国家資格そのものを取得しているわけではありません。
国家資格と特定技能評価試験の位置づけ
| 区分 | 位置づけ | 主な役割 |
|---|---|---|
| 3級自動車整備士 | 国家資格 | 基本的な点検整備の補助 |
| 2級自動車整備士 | 国家資格 | 整備主任者になれる(認証工場の主要要件) |
| 1級自動車整備士 | 国家資格(最上位) | 整備主任者・自動車検査員などへの道 |
| 特定技能評価試験(1号) | 在留資格取得のための試験 | 3級相当の業務遂行能力を確認 |
特定技能で来日した整備人材が日本で実務経験を積み、3級・2級の国家資格を取得することも可能です。3級は実務経験1年(自動車整備士養成施設修了者は不要)等で受験資格が生じ、企業として国家資格取得を後押しすることが定着率・戦力化の両面で有効です。
必要日本語レベル
特定技能「自動車整備」で求められる日本語要件は、JFT-Basic(A2レベル)または日本語能力試験(JLPT)N4以上です。これは特定技能制度共通の最低要件であり、業務上は安全に関わる指示理解・先輩整備士からのOJT受講・整備記録の確認などに使われます。
整備現場で実務的に求められる日本語
| 場面 | N4で対応可能か | 実務上の目安 |
|---|---|---|
| 整備指示書の読解 | 限定的 | N3前後 |
| 整備記録の記入 | 困難なことが多い | N3以上 |
| 朝礼・指示伝達 | 概ね可能 | N4〜N3 |
| 顧客対応(ディーラー系) | 困難 | N3〜N2 |
| 緊急時の報告・連絡 | 基本的な報告は可能 | N3以上 |
独立系の整備工場では作業中心で日本語負荷は比較的軽くなりますが、ディーラー系・販売店では顧客接点があるためN3以上の日本語力が実務的に求められます。義務的支援として日本語学習機会を提供しつつ、整備用語の社内研修を継続することが定着率の鍵となります。
給与相場と地域差
特定技能外国人の報酬は「日本人が同等の業務に従事する場合の額と同等以上」であることが運用要領で求められています。整備士の月給相場は地域・業態によって差がありますが、目安は次のとおりです。
| 地域・業態 | 月給目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 首都圏ディーラー系 | 22〜28万円 | 諸手当・賞与で年収400万円台が中心 |
| 首都圏独立系 | 20〜25万円 | 業務範囲に応じて変動 |
| 地方ディーラー系 | 19〜23万円 | 住宅手当・通勤手当を含む |
| 地方独立系 | 18〜22万円 | 家族経営の事業場でも採用例あり |
給与水準は日本人整備士の賃金規程に基づき設定する必要があります。賃金規程が整っていない事業場では、特定技能の受入を契機に賃金規程を整備するケースも増えています。残業代は労働基準法に基づき割増賃金を支払う必要があり、日本人と同基準である点に注意してください。
特定技能2号への移行(2023年6月追加・国内試験2024年7月開始)
自動車整備分野は2023年6月9日の閣議決定により、建設・造船舶用工業以外で初めて特定技能2号の対象分野に追加されました(同時期に9分野が追加)。国内における2号評価試験は2024年7月16日から開始され、1号の通算5年を超えて長期就労できる道が開かれています。
特定技能1号と2号の主な違い
| 項目 | 1号 | 2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算5年まで | 上限なし(更新可能) |
| 家族帯同 | 不可 | 可能(配偶者・子) |
| 義務的支援 | 必要 | 不要 |
| 試験水準 | 3級整備士相当 | 2級整備士相当(要:認証工場での実務経験3年以上) |
| 永住申請 | 対象外 | 就労歴の算定対象になりうる |
2号は熟練人材として、班長・チーフメカニックなどの管理業務も含めた業務に従事することが想定されています。企業にとっては、長期的に育成した整備人材が定着するメリットが大きく、採用時から2号取得を見据えたキャリアプランを提示することが差別化要因になります。
ディーラー系・独立系・大規模整備工場の違い
受入を検討する整備工場の業態は、大きく分けてディーラー系(メーカー系列)・独立系(街の整備工場)・大規模整備工場(量販整備チェーン・バス/トラック等大型車整備)の3つに分けられます。特定技能外国人にとっても、企業にとっても、業態によって特性が異なります。
| 項目 | ディーラー系 | 独立系 | 大規模整備工場 |
|---|---|---|---|
| 整備対象 | 主に自社ブランド車 | 全メーカー対応 | 商用車・大型車・複数ブランド |
| 業務範囲 | 新車整備・車検・先進装備 | 車検・修理・カスタム | 定期点検・分業ライン整備 |
| 研修体制 | メーカー研修・体系的 | OJT中心 | 社内研修制度・標準SOP |
| 顧客接点 | 多い | 少なめ | 少ない(B2B中心) |
| 必要日本語力 | N3以上が望ましい | N4〜N3で対応可 | N4で対応可(作業中心) |
| 給与水準 | やや高い | 標準的 | 標準〜やや高い |
ディーラー系は研修体制と業務範囲の広さがメリットですが、顧客対応のため日本語力ハードルが高めです。独立系は作業中心で日本語負荷が軽く、即戦力として配置しやすい一方、社内研修リソースは限られます。大規模整備工場は分業ラインと標準SOPが整っており、特定技能人材を段階的に高度作業へ移行させやすい環境です。企業の特性に応じて、配属業務と教育プランを設計することが重要です。
受入のメリットとデメリット
整備工場側のメリット
- 即戦力人材の確保:3級相当の技能を持つ人材を直接雇用できる
- 特定整備に従事可能:日本人整備士と同等の業務範囲
- 長期雇用が可能:2号移行で在留期間の上限なし、家族帯同も可能
- 定着率の安定:登録支援機関のサポートにより日本人新卒より離職率が低い傾向
整備工場側のデメリット・留意点
- 認証工場・指定工場の認証維持:整備主任者・自動車検査員は日本人で充足必要
- 義務的支援の負担:自社支援が困難な場合は登録支援機関への委託が必要
- 日本語教育コスト:実務に必要なN3水準への引き上げ支援
- 賃金規程の整備:日本人と同等以上の処遇を担保する規程整備が必要
これらは受入準備段階で対応可能な項目です。登録支援機関を活用すれば、義務的支援の大半を委託でき、整備業務に集中できる体制を整えられます。
よくある質問
Q. 特定技能の整備業務範囲は?
A. 自動車(普通自動車・小型自動車・軽自動車)の日常点検整備・定期点検整備・特定整備(旧:分解整備)の3つが業務範囲です。2020年4月改正で「分解整備」は「特定整備」へ名称変更され、ADAS等の電子制御装置整備が加わりました。道路運送車両法に基づく整備業務であり、洗車・清掃などの付随業務にも本来業務に支障のない範囲で従事できます。
Q. 国家資格3級は必須ですか?
A. 国家資格そのものは必須ではありません。特定技能評価試験が3級相当の水準で設計されており、これに合格すれば在留資格を取得できます。来日後に実務経験を経て3級・2級の国家資格を取得する道もあります。
Q. 派遣形態は可能ですか?
A. 自動車整備分野では派遣は認められておらず、受入機関による直接雇用が必須です。農業・漁業など一部の分野を除き、特定技能の多くの分野で直接雇用が原則となっています。
Q. ディーラー系で受入のメリットは?
A. 新車整備・車検業務・先進安全装備のメンテナンスなど業務範囲が広く、研修体制も整っているため、外国人材のキャリアアップに有利です。一方、顧客対応の機会が多いためN3以上の日本語力が実務的に求められる傾向があります。
Q. 残業の取り扱いは?
A. 労働基準法が日本人と同様に適用されます。36協定の範囲内で時間外労働が可能で、割増賃金の支払いが必要です。報酬は日本人が同等業務に従事する場合の額と同等以上であることが求められ、残業代も日本人と同基準で支給します。
まとめ
自動車整備業界は若手整備士の減少・有効求人倍率5倍超という構造的な人手不足のなかで、特定技能制度を活用した即戦力人材の確保が現実的な選択肢となっています。所管省庁の国土交通省と業界団体の日整連が運用を担い、評価試験を通じた採用ルートが整備されています。
業務範囲は日常点検・定期点検・特定整備と幅広く、日本人整備士と同等の業務に従事できます。受入機関は認証工場または指定工場であることが必須で、整備主任者・自動車検査員は引き続き日本人で充足する必要があります。2020年4月の道路運送車両法改正で「分解整備」は「特定整備」へ呼称が変わり、ADAS等の電子制御装置整備が加わった点も押さえておきましょう。
2023年6月の閣議決定で特定技能2号の対象分野に追加され、2024年7月から国内2号評価試験が開始されたことで、1号の通算5年に縛られない長期就労が可能になり、家族帯同も認められます。2号受験には認証事業場での実務経験3年以上が必要となるため、採用時から2号取得・国家資格取得を見据えたキャリアプランを設計することが、定着率と戦力化の両面で重要です。
整備工場の業態(ディーラー系・独立系)によって必要な日本語力や業務範囲が異なるため、自社の特性に合わせた配属設計と教育プランの策定が成果を分けます。義務的支援は登録支援機関に委託することで、整備業務に集中できる受入体制を構築できます。
※ 本記事は2026年5月時点の法令・制度に基づいて執筆しています。最新は国土交通省および日本自動車整備振興会連合会(日整連)の公式情報をご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な採用計画については専門家にご相談ください。