フルタイム要件の根拠は入管法と特定技能基準省令
特定技能雇用契約が満たすべき条件は、出入国管理及び難民認定法(入管法)第2条の5第1項が法務省令に委任しています。これを受けた特定技能基準省令(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令・平成31年法務省令第5号)第1条第1項は、労働基準法その他の労働に関する法令の規定に適合していることに加えて、7つの要件を列挙しました。労働時間に関わるのは第2号です。
外国人の所定労働時間が、特定技能所属機関に雇用される通常の労働者の所定労働時間と同等であること。
ここでいう「所定労働時間」について、運用要領は雇用契約や就業規則で定められた労働時間(休憩時間は含まない)と説明しています。就業規則を作成している特定技能所属機関では、就業規則に定められた時間がそのまま基準になります。
実務上の分岐点になるのは「通常の労働者」の解釈です。運用要領は、通常の労働者を「いわゆる『フルタイム』で雇用される一般の労働者」と定義したうえで、アルバイトやパートタイム労働者は含まれないと明記しました。自社のパート従業員と同じ所定労働時間で契約を結んでも、そのパート従業員は比較の相手方として想定されていないため、第2号の要件を満たしたことにはなりません。
この基準は入管法第2条の5第1項に基づく特定技能雇用契約の基準であり、特定技能1号と特定技能2号のどちらにも及びます。1号だけの制約と誤解したまま2号移行後の労働条件を組み替えると、契約が基準から外れます。
運用要領が示す「フルタイム」の3つの数値
運用要領は、本制度における「フルタイム」を、原則として労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ週労働時間が30時間以上である状態と説明しています。
| 区分 | 基準(原則) | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 労働日数(週) | 週5日以上 | 週4日勤務のシフト設計は基準を下回る |
| 労働日数(年) | 年間217日以上 | 365日から差し引くと年間休日148日が上限の計算になる |
| 労働時間(週) | 週30時間以上 | 休憩時間を含まない所定労働時間で判断する |
3つは並列の要件で、どれか1つを満たせば足りるものではありません。週30時間を確保していても労働日数が週4日にとどまる設計、週5日勤務でも1日5時間で週25時間にとどまる設計は、いずれもフルタイムとしての説明が難しくなります。
年間217日という数値は、年間休日148日に相当します。完全週休二日制に祝日と年末年始休暇を組み合わせた一般的な年間休日は120日前後ですから、通常の正社員と同じ年間カレンダーで運用していれば日数要件が問題になる場面は多くありません。注意したいのは、繁閑差の大きい業種で年間休日を厚めに設定しているケースや、隔週で稼働日が変動する事業所です。
労働基準法第32条は、休憩時間を除き1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させることを原則として禁じています。特定技能の週30時間は、この40時間の枠の内側に置かれた下限ラインという位置づけになります。
運用要領の記述は「原則、労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働時間が30時間以上であること」となっており、一律の数値として断定されているわけではありません。もっとも、数値を下回る設計を採る場合には後述する「フルタイムではないことの理由書」の提出が想定されているため、契約締結前に管轄の地方出入国在留管理局へ確認しておく方が安全です。
パート・アルバイト契約が認められない3つの理由
1. 比較対象の定義から外れている
省令が求めるのは「通常の労働者の所定労働時間と同等」であることで、運用要領はその通常の労働者からアルバイト・パートタイム労働者を除外しました。パート契約は、労働時間の多寡を検討する前の段階で、比較の土俵そのものから外れています。
2. 報酬要件の説明が組み立てられなくなる
特定技能基準省令第1条第1項第3号は、外国人に対する報酬の額が日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であることを求めています。続く第4号は、外国人であることを理由として、報酬の決定・教育訓練の実施・福利厚生施設の利用その他の待遇について差別的な取扱いをしていないことも要件としました。所定労働時間の短い契約では、報酬水準を日本人労働者と比較して説明する作業自体が成り立たなくなります。
3. 留学生アルバイトの延長線で考えると設計を誤る
資格外活動許可に基づく就労は、出入国管理及び難民認定法施行規則第19条第5項第1号により1週について28時間以内とされています(留学の在留資格で在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間にあるときは1日8時間以内)。留学生の「上限28時間」と特定技能の「下限30時間」は、規制の向きが正反対です。留学生アルバイトの受入れ経験をそのまま特定技能に持ち込むと、雇用条件書の段階で基準を外します。
| 項目 | 留学+資格外活動許可 | 特定技能1号 |
|---|---|---|
| 労働時間の規制 | 1週28時間以内(上限) | 週30時間以上が原則(下限) |
| 労働日数 | 日数の定めなし | 週5日以上・年間217日以上が原則 |
| 複数の勤務先 | 合計が上限内であれば可 | 複数企業での就労は不可 |
| 主な根拠 | 入管法第19条第2項、同法施行規則第19条第5項第1号 | 入管法第2条の5第1項、特定技能基準省令第1条 |
掛け持ち・副業・派遣形態はどこまで可能か
運用要領は、フルタイム要件から導かれる帰結として「特定技能外国人はフルタイムで業務に従事することが求められることから、複数の企業が同一の特定技能外国人を雇用することはできません」と述べています。出入国在留管理庁の「特定技能制度に関するQ&A」でも、一人の特定技能外国人が複数の企業と雇用契約を締結して就労することはできない旨、および別の会社でのアルバイトはできない旨が示されました。
派遣形態は農業分野・漁業分野に限られる
特定技能基準省令第1条第1項第6号は、特定技能外国人を労働者派遣等の対象とする場合に、派遣先となる本邦の公私の機関の氏名または名称および住所と、派遣の期間が定められていることを求めています。ただし運用要領は、分野別運用方針において派遣形態での雇用ができる分野が「農業分野」と「漁業分野」とされている(令和8年4月1日時点)ことから、これ以外の特定産業分野では派遣による受入れが認められないと注意を促しています。特定産業分野は令和8年4月1日施行の分野省令改正により19分野となりましたが、派遣が可能な分野はこの2分野のままです。
同一法人内の複数事業所で働かせる場合
雇用主が同一であれば、複数企業での就労には当たりません。ただし就業場所(事業所)を変更する場合は届出の対象になります。運用要領は、従前勤務していた事業所から他の事業所へ転勤した場合に加えて、当初の雇用条件書に記載していない他の事業所において掛け持ちで勤務することになった場合を具体例として挙げています。グループ会社への応援や系列店舗への配置転換を検討する際は、雇用主が変わるのか事業所が変わるだけなのかを最初に切り分けてください。
変形労働時間制・シフト制での取扱い
変形労働時間制での雇用は制度上想定されており、運用要領は次の書類を確認対象として挙げています。
- 特定技能外国人が十分に理解できる言語を併記した年間のカレンダーの写し
- 労働基準監督署へ届け出た変形労働時間制に関する協定書の写し(1年単位の変形労働時間制の場合)
週ごとの労働時間が動く制度である以上、単月の勤務表だけでは所定労働日数と所定労働時間を説明できません。年間カレンダーと協定書が確認書類とされているのは、年間を通した設計で基準への適合を確かめるためです。シフト制を採る事業所でも、年間の所定労働日数と週あたりの所定労働時間を書面で示せる状態を整えておく必要があります。
変形労働時間制を採用した場合と廃止した場合は、いずれもそれ自体が届出事由になります。制度変更を決めた時点で、特定技能外国人の雇用条件書と年間カレンダーの改訂もセットで進めてください。
年間カレンダーは「特定技能外国人が十分に理解できる言語を併記した」ものが求められます。日本語のみのカレンダーを添付しても確認書類としては足りない点に注意してください。
雇用条件書に落とし込むときの実務ポイント
契約内容は、特定技能雇用契約書(参考様式第1-5号)と雇用条件書(参考様式第1-6号)に記載します。運用要領はいずれについても、申請人が十分に理解できる言語により作成し、申請人が内容を十分に理解した上で署名していることを求めました。雇用条件書と特定技能雇用契約書には10か国語の翻訳様式が出入国在留管理庁のウェブサイトに掲載されています。
労働時間に関係する欄は「3.所定労働時間数」と「4.所定労働日数」です。この2つは後述する届出の起点にもなるため、実際の勤務実態と一致した数値を記載しておく必要があります。
正社員の所定労働時間数と所定労働日数を、就業規則ベースで確定させます。
特定技能外国人の所定労働時間数・所定労働日数を、1で確定した数値と同等に設定します。
週5日以上・年間217日以上・週30時間以上を満たすかを、年間の休日日数から確認します。
賃金規程、または特定技能外国人の報酬に関する説明書(参考様式第1-4号)で、日本人と同等以上であることを説明します。
特定技能基準省令第1条第1項第5号は、外国人が一時帰国を希望した場合に必要な有給休暇を取得させることも契約の要件としています。年間休日と年次有給休暇の設計段階でこの一時帰国分を織り込んでおくと、繁忙期に休暇取得の可否でもめる場面を減らせます。
フルタイムでなくなったときの届出義務
入管法第19条の18第1項第1号は、特定技能所属機関が特定技能雇用契約を変更したとき(法務省令で定める軽微な変更を除く)、契約が終了したとき、新たな契約を締結したときに、出入国在留管理庁長官への届出を義務づけています。出入国管理及び難民認定法施行規則第19条の17第2項により、届出は事由が生じた日から14日以内に行います。書面を地方出入国在留管理局に提出するほか、出入国在留管理庁電子届出システムを利用することもできます。使用する様式は特定技能雇用契約の変更に係る届出書(参考様式第3-1-1号)です。
労働時間に関して運用要領が挙げる届出事由は次のとおりです。
- 変形労働時間制を採用または廃止した場合
- 雇用条件書の「3.所定労働時間数」または「4.所定労働日数」を変更する場合
- 所定労働がフルタイム(労働日数が週5日以上かつ年間217日以上であって、かつ、週労働が30時間以上)ではなくなった場合
3つ目については、添付書類として「フルタイムではないことの理由書」の提出が求められます。裏を返せば、フルタイムを外れる事態が生じたときに届出と説明を尽くす手続が用意されているということでもあります。なお、始業時間と終業時間がそれぞれ変更になった場合でも、所定労働時間等に変更が生じていなければ届出は不要とされています。
法第19条の18第1項第1号の規定による届出をせず、または虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金の対象となります(法第71条の4第1号)。受注減や事業所閉鎖を理由に所定労働時間を下げる場合は、労使間の合意だけで処理せず、届出と、基準省令第1条第1項第2号への適合をどう説明するかを同時に整理してください。
年間休日日数を当初の契約より少なくする場合にも届出が必要です。ただし平年かうるう年かによる変更、暦上の日と曜日の対応関係が毎年変わることによる年末年始休暇日数の変更、法令による祝日の変更に伴う年間合計休日日数の減少は、届出不要とされています。
よくある質問
まとめ
- フルタイム要件の根拠は特定技能基準省令第1条第1項第2号で、外国人の所定労働時間が特定技能所属機関の「通常の労働者」と同等であることを求めている
- 運用要領は「通常の労働者」からアルバイト・パートタイム労働者を除外しており、パート契約では基準を満たせない
- 本制度の「フルタイム」は原則として週5日以上・年間217日以上・週30時間以上の3つを同時に満たす状態を指す
- 複数企業での就労と他社でのアルバイトは不可。派遣形態での雇用は農業分野と漁業分野に限られる(令和8年4月1日時点)
- 変形労働時間制では、翻訳を併記した年間カレンダーと1年単位の協定書の写しが確認対象になる
- 所定労働時間数・所定労働日数の変更やフルタイムでなくなった場合は14日以内に届出が必要で、怠ると30万円以下の罰金の対象になる
本記事は現時点(2026年8月)の出入国在留管理庁の運用要領等の公表内容および関係法令に基づき、特定技能雇用契約のフルタイム要件について一般的な情報を整理したものです。制度・基準・運用は改正される場合があり、個別事案への適用は条件により異なります。最新かつ正確な取扱いは出入国在留管理庁の公表資料および専門家にご確認ください。