造船分野「溶接」区分の特定技能|JIS資格との関係

造船業は日本の輸出産業を支える重要なものづくり分野であり、なかでも溶接工程は船体の品質と安全性を左右する基幹技術です。瀬戸内地域を中心に多くの造船所・舶用機械メーカーが操業していますが、熟練溶接工の高齢化と若手の確保難から、外国人材の活用が現実的な選択肢となっています。

2024年3月29日の閣議決定による特定技能の業務区分再編により、造船・舶用工業分野は従来の6区分(溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立て)を「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編(うち造船区分に溶接・塗装・鉄工・仕上げの旧4区分が統合)されました。溶接の技能測定試験は引き続き日本海事協会が実施し、合格者は造船所での溶接業務に従事できます。

この記事では、造船所・舶用機械メーカーの溶接職場担当者に向けて、以下を実務目線で解説します。

  • 業務区分「造船」のなかでの溶接の位置づけと扱える溶接の種類
  • JIS Z 3801(手溶接)・JIS Z 3841(半自動溶接)と特定技能試験の関係性
  • アーク溶接特別教育や溶接ヒューム対策など、受入企業が整備すべき安全衛生体制
  • 瀬戸内地域を中心とした給与相場と昇給設計の考え方

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造船における溶接業務の重要性

船舶は長さ100mを超えるものも珍しくなく、その船体は鋼板を組み合わせて溶接により接合して構築されます。溶接品質の良否はそのまま船体の強度・耐久性・水密性に直結するため、造船所内の工程のなかでも特に高い技能と品質管理が求められる領域です。

主要な溶接対象は船体外板、隔壁、フレーム、艤装品などで、いずれも高い寸法精度と溶接欠陥のない品質が要求されます。船級協会(一般財団法人日本海事協会=ClassNK等)の検査を経て船舶が引き渡されるため、溶接部の検査基準も厳格です。

一方で、熟練溶接工の高齢化は深刻で、瀬戸内地域の造船所でも50代以上が現場を支える状況が長く続いています。若手の確保が国内人材だけでは追いつかないなか、特定技能制度を活用した外国人溶接工の採用が現実的な選択肢として広がっています。

業務区分「造船」内の溶接の位置づけ

造船・舶用工業分野は2024年3月29日閣議決定の業務区分再編で、従来の6区分(溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立て)を「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編しました。このうち溶接・塗装・鉄工・仕上げの旧4区分は「造船区分」に統合され、機械加工は「舶用機械区分」、電気機器組立ては「舶用電気電子機器区分」へ整理されています。

この再編により、旧「溶接」区分で在留許可を受けた者は、新「造船区分」全6業務および「舶用機械区分」全11業務に従事可能となり、多能工的な活用が可能になりました。ただし、新たに特定技能を取得する場合は、溶接を主業務とするには日本海事協会が実施する技能測定試験(溶接)への合格が引き続き必要です。

項目2024年再編前2024年再編後(現行)
分野名造船・舶用工業造船・舶用工業
区分構造6区分(溶接・塗装・鉄工・仕上げ・機械加工・電気機器組立て)3区分(造船/舶用機械/舶用電気電子機器)
溶接の扱い独立区分造船区分の内訳業務
溶接の試験溶接区分試験技能測定試験(溶接)として継続実施

溶接の種類と特定技能で扱う範囲

造船所で行われる溶接は手溶接・半自動溶接・自動溶接に大別され、それぞれ用途と技能の特徴が異なります。

手溶接(被覆アーク溶接)

被覆アーク溶接棒を用いる手溶接は、屋外作業や狭隘部の溶接、補修溶接などで活躍します。風の影響を受けにくく、現場対応力が高いことが特徴です。JIS Z 3801が対応する資格区分です。

半自動溶接(CO2/MAG等)

炭酸ガスアーク溶接(CO2)やMAG溶接は、ワイヤ供給を自動化しながらトーチ操作は人が行う方式で、造船の主力工法です。大型船体の長尺溶接では半自動溶接が主流で、JIS Z 3841が対応資格となります。

自動溶接

サブマージアーク溶接や走行台車式の自動溶接機は、定盤上の長尺直線溶接などで使用されます。操作者は段取りと監視が主体になりますが、装置の取り扱いと品質管理の知識が求められます。

特定技能の溶接区分試験では、これらのうち手溶接または半自動溶接の実技課題が課されるのが一般的で、両方できる人材は受入企業からの評価が高くなります。

JIS溶接資格と特定技能の関係性

JIS溶接資格は日本溶接協会等が実施する国家規格に基づく民間資格で、造船所・鉄骨工事・配管工事などの現場で広く用いられています。代表的な規格は以下のとおりです。

規格対象主な区分
JIS Z 3801手溶接(被覆アーク)A-2F、A-3V、N-2F等(姿勢・板厚別)
JIS Z 3841半自動溶接(CO2/MAG等)SA-2F、SA-3V等
JIS Z 3821ステンレス鋼溶接TN-F、TN-V等
JIS Z 3811アルミニウム合金溶接AN-2F、AN-3V等

JIS資格の有効期限とサーベイランス

JIS溶接技能者の適格性証明書は有効期間1年で、期限前にサーベイランス(継続のための申請・実績確認)を受けて1年ずつ更新する仕組みです。3年経過後に再評価試験(実技試験)に合格しないと資格が維持できません。手溶接(JIS Z 3801)も半自動溶接(JIS Z 3841)も同じ運用で、現場では「サーベイランス未済」による失効が散見されるため、受入企業側で台帳管理を行うことが望まれます。

特定技能試験との関係

JIS資格と特定技能の技能測定試験は別物です。海外でJIS資格や同等資格(ISO 9606等)を取得していても、特定技能の在留資格取得には日本海事協会が実施する造船分野の溶接技能測定試験への合格が別途必要です。試験そのものは免除されません。

とはいえ、JIS資格保有者は試験対策がしやすく、現場配属後の即戦力性が高いため、受入企業からは「採用後にJIS資格取得を目指す」というキャリアパス設計が好まれる傾向にあります。手当制度と組み合わせると定着率向上にもつながります。

試験内容と合格基準

造船・舶用工業分野の特定技能評価試験(溶接区分)は一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が実施しています。試験は学科と実技で構成されます。

学科試験

溶接に関する基礎知識(材料、装置、安全衛生、欠陥と対策等)を出題する筆記試験で、母国語または日本語で実施されます。合格基準は試験ごとに公表されます。

実技試験

受験者が試験会場で実際に溶接サンプル(試験片)を作成し、外観検査や曲げ試験等によって評価されます。手溶接または半自動溶接のいずれかを選択する形式が一般的で、姿勢(下向き・立向き等)と板厚に応じた課題が指定されます。

合格者には合格証明書が交付され、これをもとに在留資格認定証明書交付申請(海外からの呼び寄せ)や在留資格変更許可申請(国内在留者)を行います。

受入企業に必要な安全衛生体制

溶接作業はアーク光・高温・ヒューム・スパッタ・感電など多様な労働災害リスクを伴うため、受入企業は安全衛生体制を整える必要があります。

溶接ヒューム対策(特化則改正・2021年4月施行)

2020年4月22日公布・2021年4月1日施行の改正により、特定化学物質障害予防規則(特化則)で溶接ヒュームが第二類特定化学物質に追加されました(屋内・屋外を問わず金属アーク溶接等作業が対象)。屋内作業場では全体換気装置等による換気、有効な呼吸用保護具(フィットテスト含む)の使用、作業環境の濃度測定とそれに基づくマスクの選定、特殊健康診断などが義務付けられています。

特殊健康診断は雇入時・配置換え時、およびその後6か月以内ごとに1回定期的に実施する必要があります。検査項目には業務歴・自覚症状の調査、神経学的検査、握力測定等が含まれ、医師が必要と認める場合は二次健診(MRI等)も行います。

外国人労働者についても日本人と同じ基準で保護する必要があり、母語または平易な日本語による説明・標識整備が重要です。理解不足のまま作業に従事させると重大事故やじん肺・マンガン中毒などの長期的健康障害につながるリスクがあります。

保護具と作業環境

  • 溶接面・遮光メガネ(アーク光対策)
  • 呼吸用保護具(防じんマスクまたは電動ファン付き呼吸用保護具)
  • 難燃性作業服・革手袋・安全靴
  • 換気設備(局所排気装置・全体換気)
  • 火気使用区画の標識・消火設備

アーク溶接特別教育の実施

労働安全衛生規則36条3号は、アーク溶接機を用いた金属の溶接・溶断・溶融等の業務に従事する労働者に対し、事業者が特別教育を実施することを義務づけています。外国人労働者も同様に対象となります。

教育内容(規定時間以上)

安全衛生特別教育規程(昭和47年労働省告示第92号)第4条が定める科目別の最低時間は次のとおりで、学科11時間以上+実技10時間以上(合計21時間以上)が法定要件です。

区分科目時間
学科アーク溶接等に関する知識(電気の基礎を含む)1時間以上
学科アーク溶接装置に関する基礎知識3時間以上
学科アーク溶接等の作業の方法に関する知識(感電防止・ヒューム障害対策含む)6時間以上
学科関係法令1時間以上
実技アーク溶接装置の取扱い・溶接等の作業10時間以上

社内実施または外部講習機関(労働基準協会・溶接協会等)の利用のいずれでも可能ですが、いずれの場合も受入企業の責任で完了させる必要があります。未実施のまま業務に就かせると労働安全衛生法第59条3項違反となり、所轄労働基準監督署の指導対象になります。

給与相場(地域別)と昇給設計

造船所での溶接職の給与は地域差が大きく、瀬戸内地域(広島・愛媛・岡山・香川等)では以下が目安です。

経験レベル月給目安(基本給)備考
未経験〜1年(試験合格直後)23〜25万円研修期間を含む
2〜3年(半自動溶接の主担当)25〜27万円夜勤手当別途
3年以上(高難度溶接対応)27〜30万円資格手当・危険作業手当別途
JIS資格保有者+1〜2万円の手当級数に応じて加算

基本給に加えて、夜勤手当・残業手当・資格手当・危険作業手当・住宅手当・賞与が積み上がります。JIS資格の取得を昇給と連動させる制度は、定着率と技能向上の両面で効果が高い設計です。

国際資格保有者の活用

海外の溶接工のなかにはISO 9606(金属材料の溶接技能者の資格認証)を保有している方が一定数います。ISO 9606はJIS Z 3801/3841と内容が類似しており、保有者は実技基礎が整っているため、入社後のJIS資格取得まで短期間で到達できる傾向があります。

採用面接時にはISO 9606の資格証(Welder Qualification Test Certificate)の有無、溶接姿勢(PA/PB/PC/PF等)、対象材料(炭素鋼・ステンレス・アルミ)、溶接方法(111=被覆アーク手溶接、135=MAG、136=FCAW、141=TIG等)を確認することで、現場適応性を見極めやすくなります。

国別の溶接人材の傾向

送り出し国によって溶接訓練の傾向には特色があります。フィリピンはTESDA(技術教育技能開発庁)認定のNC II(Shielded Metal Arc Welding/GMAW)取得者が多く、英語が通じやすいため安全教育の翻訳負担が比較的軽い傾向です。ベトナムは3〜5年の職業大学(Cao đẳng nghề)で半自動溶接(CO2/MAG)の訓練を受けた人材が一定数おり、造船分野の半自動主体の現場と相性が良い傾向にあります。インドネシアはBNSP(国家職業認証庁)のWelder資格、ミャンマーは政府系訓練校(GTHS等)出身者が中心です。

いずれの国でも、来日前に日本海事協会の技能測定試験(溶接)に合格しているかが採用判断の出発点となります。資格証・訓練修了証だけでなく、可能であれば動画で溶接姿勢を確認すると、現場配属後のミスマッチを減らせます。

安全衛生教育の多言語対応事例

受入企業の取り組み例として、アーク溶接特別教育を母語ナレーション付きの動画教材で実施し、確認テストを多言語で行うパターンが増えています。厚生労働省「外国人労働者向け安全衛生教育教材」や中央労働災害防止協会の多言語リーフレット(ヒューム障害・感電防止等)を併用すると、社内オリジナル教材の作成負担を軽減できます。標識についても、ISO 7010準拠のピクトグラム+多言語表記(日・英・越・尼等)を採用する造船所が増えています。

よくある失敗と対策

失敗例1:JIS資格があれば試験免除と思い込む

海外でJIS同等資格を取得していても、特定技能の溶接試験は別途必要です。採用前に試験合格状況を必ず確認しましょう。

失敗例2:アーク溶接特別教育を未実施のまま現場投入

労働安全衛生法違反であり、労災発生時の責任も重くなります。入社後の早期に必ず完了させる運用が必須です。

失敗例3:溶接ヒューム対策の説明不足

母語または平易な日本語での説明、図解標識の整備が必要です。健康診断と作業環境測定の実施記録も保管しておきましょう。

失敗例4:手当設計が画一的で技能向上のインセンティブがない

JIS資格取得や高難度溶接対応に応じた手当設計が、定着率と現場品質の両方を引き上げます。

よくある質問

Q. JIS溶接資格の保有者を特定技能で優先採用することは可能ですか?

A. JIS Z 3801(手溶接)やJIS Z 3841(半自動溶接)の有資格者は即戦力となるため、優先採用は実務上一般的です。ただし特定技能の在留資格取得には日本海事協会が実施する造船区分の溶接技能測定試験への合格が別途必要であり、JIS資格保有によって試験が免除されることはありません。

Q. 技能測定試験の溶接実技はどこで実施されますか?

A. 一般財団法人日本海事協会(ClassNK)が国内・海外の指定試験会場で実施します。受験者が実際に溶接サンプル(試験片)を作成し、外観検査や曲げ試験等で評価されます。会場と日程は日本海事協会の公式案内で随時公表されます。

Q. アーク溶接特別教育は受入企業の義務ですか?

A. 労働安全衛生規則36条3号により事業者の義務です。社内実施または外部講習のいずれでも可能ですが、未実施のまま業務に就かせると労働安全衛生法違反となります。

Q. 造船の溶接職は経験年数で給与が大きく変わりますか?

A. 瀬戸内地域では未経験〜1年で月23〜25万円、3年以上の高難度対応者で27〜30万円が目安で、これに各種手当と賞与が加算されます。JIS資格保有級数に応じた手当設計が一般的です。

Q. 造船分野の特定技能2号への移行は可能ですか?

A. 造船・舶用工業分野は特定技能2号の対象分野で、溶接区分も2号への移行が可能です。2号技能測定試験の合格と一定の実務経験(管理経験を含む)が要件となります。詳細は国土交通省の分野別運用方針をご確認ください。

まとめ

造船分野の溶接業務は船体の安全性を左右する基幹技術であり、熟練人材の確保が業界全体の課題です。2024年3月の業務区分再編で「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に整理され、溶接は「造船区分」の中核業務となりました。溶接の技能測定試験は引き続き日本海事協会が実施しており、合格者は造船所での溶接業務に従事できます。

JIS Z 3801(手溶接)・JIS Z 3841(半自動溶接)と特定技能試験は別物で、JIS資格保有者でも特定技能試験への合格は別途必要です。一方、JIS資格保有者は現場での即戦力性が高く、入社後のJIS資格取得を昇給と連動させる設計は定着率向上に有効です。

受入企業はアーク溶接特別教育(労働安全衛生規則36条3号)と溶接ヒューム対策(特化則2020年改正)の実施が必須です。外国人労働者にも日本人と同じ安全基準で保護する必要があり、母語または平易な日本語での説明・標識整備が事故防止の要となります。

瀬戸内地域の給与相場は未経験で月23〜25万円、経験者で27〜30万円が目安で、JIS資格手当・危険作業手当を含めた総合的な処遇設計が、長期定着と技能向上の両立につながります。

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※ 本記事は2026年5月時点の公開情報に基づいて執筆しています。造船・舶用工業分野の最新の運用方針は国土交通省、技能測定試験の最新情報は一般財団法人日本海事協会、JIS規格の詳細は日本産業標準調査会(JISC)の公式情報をご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な採用計画・労働安全衛生対応については各専門家にご相談ください。