コロナ禍からの航空需要回復とインバウンド再拡大により、国内空港のグランドハンドリング要員と航空機整備士の不足が深刻化しています。特に成田・羽田・関西の3大空港では、地上支援業務(ランプ業務・貨物・客室清掃等)の人手不足が定時運航の制約要因になっており、国土交通省と空港運営会社は外国人材の活用を本格化させています。
2019年に特定技能制度が始まった当初から航空分野は対象14分野(現16分野)の一つとして位置づけられ、2023年8月31日には特定技能2号の対象にも追加(令和5年6月9日閣議決定・同年8月31日省令施行)されました。これにより、航空分野では1号・2号を通じた長期的な人材育成・定着が可能になっています。第2期(令和6年4月~令和11年3月)の受入見込数は最大4,400人と設定されています。
この記事では、空港運営会社・航空会社・グランドハンドリング会社の経営者と人事担当者向けに、以下のポイントを解説します。
- 航空業特定技能の2つの業務区分(グランドハンドリング/航空機整備)の違い
- 航空分野特定技能評価試験の実施機関と内容
- 受入機関の要件と所管省庁(国土交通省航空局)
- 主要空港の需要動向と特定技能2号への移行
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航空業の人手不足と特定技能の活用
2024年以降、訪日外国人数はコロナ前の水準を上回るペースで推移しており、空港の地上支援業務の人員不足が顕在化しています。グランドハンドリング各社では、コロナ禍の人員整理から需要急回復への対応が追いつかず、便数の回復制約や折り返し時間の延長といった運航影響も発生しました。
こうした背景から、国土交通省航空局は航空分野での外国人受入れを推進しており、2023年8月の特定技能2号対象分野への追加に続き、評価試験の海外実施国も拡大されています。出入国在留管理庁公表(2024年6月末時点)では、航空分野の特定技能在留者数は959人で、2023年12月末(342人)から半年で約2.8倍に増加するなど受入れが急拡大しています。
航空業の人材ニーズの特徴
- シフト勤務が必須:空港運用は早朝便から深夜便まで24時間体制に近く、人員確保が困難
- 専門技能の継承:整備分野はベテラン整備士の退職に伴う技術継承課題
- 定時運航の維持:地上支援は1便の遅延が後続便に波及する性質
- セキュリティクリアランス:制限区域への立入りには所定の手続が必要
業務区分:グランドハンドリングと航空機整備
航空分野の特定技能は次の2つの業務区分に分かれています。区分ごとに別の評価試験が実施され、従事できる業務範囲も明確に定められています。
| 業務区分 | 主な業務内容 | 主な受入機関 |
|---|---|---|
| 空港グランドハンドリング | 手荷物・貨物取扱、ランプ業務、客室清掃、誘導等 | グランドハンドリング会社、航空会社 |
| 航空機整備 | 運航整備、機体整備、装備品・原動機整備 | 航空会社、航空機整備事業者 |
2つの業務区分とも、所管は国土交通省航空局です。受入機関は航空法に基づく事業許可や空港管理規則に基づく構内営業承認等を受けていることが要件となります。
グランドハンドリング業務の詳細
空港グランドハンドリングは、航空機が空港に到着してから出発するまでの一連の地上支援業務を指します。特定技能で従事できる主な業務は次のとおりです。
ランプ業務
- マーシャリング(航空機の誘導)
- トーイング・プッシュバック(航空機の牽引)
- 地上動力源・空調装置の接続
- 給油車両の誘導補助
手荷物・貨物取扱
- 手荷物のソーティングと搭降載
- 貨物・郵便物のULD(搭載用具)への積付け
- ベルトローダー・ハイリフトローダー等の操作補助
旅客サービス・客室清掃
- 機内清掃(座席・トイレ・ギャレー等)
- 機内備品の補充・整理
- 到着便から出発便への折り返し作業
これらの業務は、いずれも空港の制限区域内で行われます。安全教育とセキュリティ研修を経た上で従事することになります。
航空機整備業務の詳細
航空機整備は、航空機の安全運航を支える専門技能職です。特定技能で従事可能な範囲は、有資格者の指示・監督の下で行う整備補助業務が中心となります。
運航整備
航空機が出発するまでに行う日常的な点検・整備で、外観点検、エンジンオイル・作動油の補充、消耗品交換、簡易な不具合修正等が含まれます。フライト間隔の短い運航整備では、迅速かつ正確な作業が求められます。
機体整備
定期的に行う重整備で、機体構造の検査、部品の交換、塗装、システム機能試験等を行います。格納庫内での作業が中心です。
装備品・原動機整備
エンジン、降着装置、電子機器等の装備品単体の整備で、専門工場で実施されます。
なお、航空機整備士の国家資格(一等航空整備士・二等航空整備士等)が必要な独占業務については、有資格者が担当します。特定技能外国人はあくまで補助業務に従事する位置づけです。
受入機関の要件
航空分野の特定技能外国人を受け入れる機関には、次の要件が課されます。
| 要件項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業許可・承認 | 航空法に基づく事業許可、または空港管理規則に基づく構内営業承認等 |
| 所管省庁の協議会 | 国土交通省所管の「航空分野特定技能協議会」への加入義務 |
| 雇用形態 | 直接雇用のみ(派遣形態は不可) |
| 支援体制 | 義務的支援10項目の実施(自社実施または登録支援機関への委託) |
| 報酬 | 同等業務に従事する日本人と同等以上 |
受入後の支援体制について、自社対応が難しい場合は登録支援機関に委託することが可能です。委託することで、入国前ガイダンス・生活オリエンテーション・定期面談・行政手続同行・日本語学習機会の提供等の義務的支援を専門機関に任せることができます。
試験制度(航空分野特定技能評価試験)
試験ルートで航空分野の特定技能を取得する場合、航空分野特定技能評価試験に合格する必要があります。指定機関である公益社団法人日本航空技術協会(JAEA)が実施しています(試験申込・スケジュールは exam.jaea.or.jp)。
試験の構成
| 業務区分 | 学科試験 | 実技試験 |
|---|---|---|
| 空港グランドハンドリング | 地上支援業務に関する一般知識・安全管理等 | 手荷物取扱・ランプ業務・客室清掃に関する実技 |
| 航空機整備 | 整備の基礎知識・関係法令・安全管理等 | 工具使用・部品交換・点検作業等の実技 |
実施国
国内では東京・千葉・大阪・福岡などの主要空港圏で、海外ではフィリピン、モンゴル、ネパール、インドネシア、スリランカ等で実施実績があります。最新の試験スケジュールはJAEA公式サイトで随時公表されています。
なお、技能実習からの移行も可能です。空港グランドハンドリングや航空機整備に相当する技能実習を「良好に修了」した場合、評価試験と日本語試験が免除されます。
必要日本語レベル
航空分野でも他分野と同様、国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2レベル以上、または日本語能力試験(JLPT)N4以上の合格が必要です。
制度上のN4と現場で必要な日本語力のギャップ
| 場面 | N4で対応可能か | 実務上の目安 |
|---|---|---|
| 同僚・上司との日常会話 | 概ね可能 | N4〜N3 |
| 無線・インカム交信 | 困難なことが多い | N3以上 |
| 整備記録・作業指示書の読解 | 困難 | N3〜N2 |
| 緊急時の報告・連絡 | 限定的 | N3以上 |
空港運用と整備は安全に直結する業務です。制度上の最低要件はN4ですが、現場では無線交信や整備記録の読み書きに対応できる実務的な日本語力が必要となるため、入職後の継続的な日本語教育が定着率と安全性の両面で重要です。
主要受入空港と需要
特定技能外国人の受入れは、便数の多い主要空港から拡大しています。各空港の特徴は次のとおりです。
| 空港 | 運営会社 | 特徴 |
|---|---|---|
| 成田国際空港 | 成田国際空港株式会社 | 国際線拠点・貨物便多数・LCC多数就航 |
| 東京国際空港(羽田) | 国土交通省航空局・各ターミナル会社 | 国内線・国際線ハブ・発着回数最多 |
| 関西国際空港 | 関西エアポート株式会社 | 関西圏国際ハブ・24時間運用 |
| 中部国際空港 | 中部国際空港株式会社 | 中部圏国際ハブ |
| 福岡空港 | 福岡国際空港株式会社 | 九州ハブ・アジア路線多数 |
これらの主要空港では、JAL系列の JALグランドサービス(JGS)・JALエンジニアリング、ANA系列の ANAエアポートサービス・ANAエアロサプライシステム・MRO Japan、外資系の Swissport Japan など、グランドハンドリング会社・整備会社が積極的に外国人材を受け入れています。地方空港でも、LCC(ピーチ・ジェットスター等)の就航拡大とインバウンド需要の地方分散に伴い、福岡・那覇・新千歳・仙台・広島等で受入れの動きが広がっています。
2024年以降、訪日外国人客数はコロナ前(2019年実績3,188万人)を上回るペースで推移しており、国の目標である2030年6,000万人達成に向けて空港地上業務の人員需要は中期的に拡大基調にあります。航空需要回復に対し、グランドハンドリング業界では新卒採用・中途採用だけでは充足が困難な状況が続いており、特定技能外国人の活用が中期人員計画の柱に位置づけられています。
給与相場とシフト勤務
航空業の特定技能外国人の報酬は、同等業務に従事する日本人と同等以上が必須です。地域や経験により幅がありますが、参考相場は次のとおりです。
| 業務区分 | 初任給目安(月給) | 備考 |
|---|---|---|
| 空港グランドハンドリング | 21〜25万円程度 | 夜勤・早朝勤務手当が別途加算 |
| 航空機整備(補助) | 22〜27万円程度 | 資格手当が別途加算 |
空港業務はシフト勤務が前提です。早朝便対応の早番、深夜便対応の遅番、貨物便対応の深夜勤務など、勤務形態が多岐にわたります。シフト体制と通勤手段の確保が、定着率を左右する重要なポイントになります。
特に深夜勤務がある場合、住居の確保と公共交通機関の有無を踏まえた送迎体制の整備が必要です。受入企業による社員寮の提供や通勤支援が、外国人材の安定就労に直結します。
シフト勤務の労務管理ポイント
- 深夜割増(労基法37条4項):22時〜翌5時の深夜労働は25%以上の割増賃金が必要。日本人と同一の基準で適用
- 変形労働時間制の活用:1か月単位または1年単位の変形労働時間制で繁閑差に対応する事業者が多い
- 週末・祝日対応:航空需要のピークは週末・連休に集中するため、シフト固定/ローテーションを雇用契約書で明示
- 通勤・送迎:始発前/終電後の勤務帯がある主要空港では、社員寮・社用シャトル・タクシー費用補助の整備が定着率に影響
- 多言語シフト管理:シフト表のローマ字併記・専用アプリ活用で誤読を防止
安全衛生・セキュリティ要件
空港の制限区域内で業務に従事するため、安全衛生とセキュリティの両面で厳格な要件があります。
安全衛生研修
- ジェットブラスト(エンジン排気)への対応
- FOD(外来物損傷)防止
- 車両・地上機材の安全運用
- 騒音下での意思疎通(ハンドサイン等)
セキュリティクリアランス
空港制限区域への立入りには、各空港会社が発行する 制限区域立入承認証(通称SIDA/空港IDカード) の取得が必要です。新規取得にあたっては、本人確認書類・在留カード写し・雇用契約書写しに加え、過去の犯罪歴照会を含む身元確認手続が行われ、発行までに通常2〜4週間程度を要します。在留資格認定証明書交付後・入国後の流れと並行して、入職前に余裕を持ったスケジュールで進めることが重要です。
SIDA発行後も、所属変更・退職時には返納手続が必要で、紛失時は所定のペナルティが課されるため、受入機関側で管理台帳を整備しておく運用が定着しています。
整備業務では、IDカードの管理、工具の持込・持出管理、整備区域での服装規定等、保安に関する細かなルールがあります。入職時のオリエンテーションでこれらを十分に教育することが、安全運航の確保につながります。
特定技能2号への移行
航空分野は2023年8月に特定技能2号の対象に追加された分野です。1号で通算5年の在留後、所定の試験合格と実務経験要件を満たすことで2号への移行が可能になります。
特定技能2号のメリット
| 項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 在留期間 | 通算5年まで | 上限なし(更新可能) |
| 家族帯同 | 不可 | 可能(配偶者・子) |
| 義務的支援 | 必要 | 不要 |
| 永住への道 | 限定的 | 永住申請の要件を満たしやすい |
2号取得には、業務区分ごとの2号評価試験の合格と、班長・指導者としての実務経験等が要件となります。1号採用時から2号移行を見据えた育成計画を提示することが、長期的な人材確保の差別化要因になります。
よくある質問
Q. 航空業特定技能の業務区分は何ですか?
A. 「空港グランドハンドリング」と「航空機整備」の2区分です。グランドハンドリングは手荷物・貨物取扱、ランプ業務、客室清掃、誘導等を、航空機整備は運航整備・機体整備・装備品整備等を担当します。所管は国土交通省航空局です。
Q. グランドハンドリングと航空機整備の違いは何ですか?
A. グランドハンドリングは空港地上支援業務で、航空機の到着から出発までの地上作業全般を担います。航空機整備は機体や部品の点検・修理・部品交換などの整備作業を担います。求められる技能や試験内容が異なり、業務区分ごとに別の評価試験が実施されます。
Q. 航空分野特定技能評価試験はどこで実施されますか?
A. 公益社団法人日本航空技術協会(JAEA)が指定機関として実施しています。国内では東京・千葉・大阪・福岡等で、海外ではフィリピン・モンゴル・ネパール・インドネシア・スリランカ等で実施実績があります。学科と実技で構成され、業務区分ごとに別々に実施されます。
Q. 必要な日本語レベルはどの程度ですか?
A. 制度上はJFT-Basic A2レベル以上または日本語能力試験N4以上が要件です。ただし、無線交信や緊急対応、整備記録の読み書きには実務的にN3相当以上の日本語力が現場で求められるケースが多くなっています。
Q. 派遣形態での受入れは可能ですか?
A. 航空分野では派遣形態は認められておらず、直接雇用が必須です。受入機関は航空法に基づく事業許可、または空港管理規則に基づく構内営業承認等を受けていることが要件となります。
まとめ
航空業の特定技能外国人を採用する際のポイントを整理します。
業務区分は「空港グランドハンドリング」と「航空機整備」の2つに分かれており、所管は国土交通省航空局です。受入機関は航空法に基づく事業許可または空港管理規則に基づく構内営業承認等を受けていることが要件となります。
試験は公益社団法人日本航空技術協会(JAEA)が指定機関として実施する航空分野特定技能評価試験への合格が必要です。日本語要件はJFT-Basic A2またはJLPT N4以上ですが、安全に直結する業務特性から、現場ではN3相当の実務日本語力が求められることが多くなっています。
航空分野は2023年8月に特定技能2号の対象に追加された分野で、長期的な人材育成・定着が可能です。雇用形態は直接雇用のみで派遣不可、シフト勤務体制と制限区域立入承認証の取得が運用上の重要ポイントとなります。受入後の義務的支援は登録支援機関への委託も可能です。
※ 2026年5月時点。最新は国土交通省航空局・関係団体の公式情報をご確認ください。
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