特定技能の二国間協定(MOC)|送り出し国別の手続き差

特定技能外国人の採用では、日本側の在留資格手続だけを整えても入国までたどり着けないことがあります。日本は送出国政府との間で協力覚書(MOC)を作成しており、覚書に基づく本国側の手続を経ていることが、上陸基準省令上の要件として求められているためです。ベトナムの推薦者表、カンボジアの登録証明書、フィリピンのMWO審査とDMW登録など、国ごとに求められる手続は大きく異なります。協力覚書の位置づけと法的な根拠を確認したうえで、主要な送り出し国の手続きの差と、日本国内に在留する人を採用する場合の注意点を、出入国在留管理庁の公表資料に沿って整理します。

二国間の協力覚書(MOC)とは

協力覚書(MOC:Memorandum of Cooperation)は、特定技能制度の適正な運用のために、日本政府と送出国政府との間で作成される文書です。出入国在留管理庁は、その趣旨を「特定技能外国人の円滑かつ適正な送出し・受入れの確保等」のためと説明しています。

より具体的な目的は、特定技能外国人受入れに関する運用要領に記されています。運用要領は「本制度では、悪質な仲介事業者の排除を目的として、外国政府との情報共有の枠組みの構築を目的とする二国間取決めを送出国政府との間で作成することとしています」と述べ、雇用契約の締結に海外の取次機関が関与する場合には、保証金等を徴収するブローカーが関与しないよう公表情報を活用するよう求めています。

つまり協力覚書は、企業に新たな義務を課す協定というより、送り出しルートの透明性を確保するための政府間の情報連携の枠組みにあたります。認定送出機関のリストが出入国在留管理庁のサイトで公表されているのも、この枠組みの一部です。

覚書がない国からも受入れはできる

出入国在留管理庁は「MOCを作成した国でなければ、特定技能外国人の受入れができないものではありません」と明記しています。運用要領にも、二国間取決めを作成した国以外の国籍を有する者であっても受け入れることは可能である旨が記載されています。覚書の有無は、受入れの可否ではなく、本国側でどのような手続が求められるかの目安と捉えるのが実務的です。

協力覚書を作成している国

出入国在留管理庁のウェブサイト「特定技能に関する二国間の協力覚書」には、覚書を作成した国が掲載順に並んでいます。掲載されているのは次の17か国です。

フィリピン
カンボジア
ネパール
ミャンマー
モンゴル
スリランカ
インドネシア
ベトナム
バングラデシュ
ウズベキスタン
パキスタン
タイ
インド
マレーシア
ラオス
キルギス
タジキスタン

覚書には継続期間が定められており、更新の状況も同ページで公表されています。ネパールとミャンマーは継続期間を2024年4月1日から5年間更新済み、インドネシアは2026年6月25日から6か月間更新済みと記載されています。

覚書の一覧に載っていない国もある

特定技能外国人の国籍として実務上よく見られる国でも、協力覚書の一覧に掲載されていない国があります。掲載がないこと自体は受入れの障害になりませんが、本国側の手続について出入国在留管理庁の国別資料が用意されていないため、在日公館などへの個別確認が必要になります。

本国の手続きが日本側の許可要件になる根拠

送り出し国側の手続は「相手国の事情」ではなく、日本の在留資格審査に直結します。根拠は上陸基準省令(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令)にあり、特定技能の項では次のとおり定められています。

上陸基準省令(特定技能)

申請人が国籍又は住所を有する国又は地域において、申請人が本邦で行う活動に関連して当該国又は地域において遵守すべき手続が定められている場合にあっては、当該手続を経ていること。

運用要領はこの基準について、海外に渡航して労働を行う場合の本国での許可等、本国において必要な手続を遵守していることを求めるものと説明し、二国間取決めにおいて「遵守すべき手続」が定められている場合には当該手続を経ていることが必要であるとしています。本国側の手続を飛ばしたまま在留諸申請を行えば、基準不適合として扱われる余地があります。

旅券に関する要件と対象外の国

もう一つ、国籍によって受入れの可否が分かれる基準があります。上陸基準省令は、退去強制令書の円滑な執行に協力するとして法務大臣が告示で定める外国政府等の権限ある機関が発行した旅券を所持していることを求めています。この告示(平成31年法務省告示第85号)は対象を「イラン・イスラム共和国を除いた国の政府」と定めており、イラン・イスラム共和国の国籍者は特定技能の受入れ対象から外れます。

保証金・違約金は受入企業のリスクにもなる

協力覚書がねらう「悪質な仲介事業者の排除」は、受入企業の欠格事由とも表裏の関係にあります。運用要領は、保証金の徴収や違約金契約の存在を認識しながら特定技能雇用契約を締結して受け入れた場合、出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為を行ったものとして欠格事由に該当し、5年間受入れができないこととなると注意を促しています。

送り出し国別の手続き比較

出入国在留管理庁は、主要な送り出し国ごとに「受け入れるまでの手続の流れ」を公表しています。送出機関を必ず通す国、任意の国、政府機関そのものが唯一の送出機関である国と、前提が異なります。

送出機関の利用本国側の中心的な手続
ベトナム認定送出機関を利用労働者提供契約を締結し海外労働管理局(DOLAB)の承認を取得。推薦者表の発行を受ける
フィリピン認定送出機関を利用募集取決めの締結、MWOへの書類提出・面接、DMWへの雇用主登録、OECの取得
インドネシア直接採用またはP3MI利用直接採用はIPKOLでの求人、P3MI利用は駐日大使館での求人票等の確認。本人によるSISKOP2MI登録
カンボジア認定送出機関を利用労働職業訓練省(MoLVT)が発行する登録証明書の取得
ミャンマー認定送出機関を利用労働・入国管理・人口省(MOLIP)による求人票の許可・承認、海外労働身分証明カード(OWIC)の申請
ネパール直接採用が可能健康診断、出国前オリエンテーション、海外労働許可証の取得
タイ利用の有無で手順が異なる駐日タイ王国大使館労働担当官事務所による雇用契約書の認証、タイ王国労働省の出国許可
モンゴルGOLWSが唯一の送出機関GOLWSとの双務契約、候補者表の提供、査証申請代理手続の委任
スリランカ任意海外雇用局(SLBFE)へのオンライン海外労働登録
バングラデシュ任意駐日大使館による要求書(Demand Letter)の認証、BMETでのカード取得
ラオス認定送出機関を利用労働社会福祉省からの送出許可証の取得

同じ「認定送出機関を通す」国でも、企業が負う作業量は同じではありません。ベトナムでは受入機関が認定送出機関と労働者提供契約を結び、その契約自体をDOLABに承認してもらう必要があります。フィリピンでは募集取決めを日本の公証役場で公証したうえでMWOに提出し、審査と面接を経てDMWに雇用主として登録されるまで採用活動に着手できないとされています。

手続きは3つの型に整理できる

国ごとの違いは細かく見えますが、受入企業の実務では次の3つの型に分けると設計しやすくなります。どの型かによって、日程上のボトルネックになる場所が変わります。

TYPE 1
在留諸申請に本国発行書類を添付する型

ベトナムの推薦者表、カンボジアの登録証明書が該当します。書類が揃わなければ在留資格認定証明書の交付申請が進みません。

TYPE 2
受入企業が本国政府・在日公館の審査を受ける型

フィリピンのMWO審査とDMW登録、タイの雇用契約書認証、バングラデシュの要求書認証が該当します。求人開始前の手当てが必要です。

TYPE 3
本人が出国前に許可・登録を行う型

ネパールの海外労働許可証、ミャンマーのOWIC、スリランカの海外労働登録、インドネシアのSISKOP2MI登録が該当します。査証発給から出国までの間に集中します。

TYPE 1は在留資格申請の前段が詰まり、TYPE 2は募集開始前の準備期間として織り込む必要があります。TYPE 3は日本側の手続がすべて終わった後に残る工程であり、入社日の設定に直接響きます。一つの国で複数の型が重なることも珍しくなく、インドネシアはP3MI利用時にTYPE 2の要素を含みつつ、本人によるSISKOP2MI登録というTYPE 3の工程も持ちます。

日本に在留する人を採用する場合の本国手続

技能実習の修了予定者や留学生を国内で採用する場合、本国側の手続は不要だと考えられがちですが、多くの国では在留資格変更許可申請の前後に手続が残ります。国別資料では次のような取扱いが示されています。

ラオスは一度帰国が必要とされている

ラオス当局によれば、ラオスの法令上、在留資格「技能実習」から在留資格「特定技能」へ変更する際には、一度ラオスに帰国する必要があるとされています。国内での在留資格変更だけで完結する前提で入社日を設定すると、日程が大きく崩れることになります。詳細は駐日ラオス大使館への確認が必要です。

フィリピンでは、在留資格変更後に「特定技能」を保有したまま再入国許可制度を利用して一時帰国する場合、DMWにOECの発行を申請・取得し、出国審査で提示する必要があるとされています。ネパールでも一時帰国の際に海外労働許可証の申請・取得が必要とされており、変更後にも本国手続が発生する国がある点は見落とされやすい部分です。

スケジュール設計で押さえる所要日数

採用の日程を組むうえでは、本国側の手続に要する期間を先に押さえる必要があります。国別資料では次のような目安が示されています。

手続目安
フィリピン:MWOでの審査書類に不備がなければ15営業日内
カンボジア:登録証明書の発行2〜3営業日(発行手数料はなし)
バングラデシュ:駐日大使館による要求書の認証約3営業日(費用は無料)
バングラデシュ:エミグレーション・クリアランス・カード申請から発行まで約2営業日
インドネシア:駐日大使館での求人票等の確認3日程度(費用は無料)
ネパール:健康診断から海外労働許可証取得までおおむね10日間程度
モンゴル:GOLWSの登録から証明書交付までおおむね3営業日

あわせて注意したいのが、在留資格認定証明書の有効期限です。出入国在留管理庁のフィリピン向け資料は、同証明書の有効期限が交付された日から3か月であることを示したうえで、本国側の手続に必要と見込まれる期間も考慮し、有効期限切れとならないよう留意を求めています。フィリピンでは出国前オリエンテーションの受講申込時とOECの発行申請時に同証明書が有効期限内である必要があるとされ、交付後の段取りが遅れると振り出しに戻りかねません。

受入企業が陥りやすい落とし穴

国別資料を読み込むと、代行や委任が認められない場面、日本側の許可が別途必要になる場面が随所にあります。思い込みで進めるとやり直しになりやすい論点を挙げます。

情報の鮮度を確認する

本国側の運用は相手国政府の判断で変わります。出入国在留管理庁の国別資料でも、認定送出機関のリストについて、相手国政府からの情報提供のタイミング等により掲載情報が最新でない可能性がある旨が注記されています。採用に着手する前に、出入国在留管理庁の国別ページと在日公館の案内を突き合わせて確認してください。なお、在留資格認定証明書交付申請などの入管手続の代理・取次は、TGPと連携する行政書士法人Treeが担当します(TGP自体が申請取次を行うものではありません)。

よくある質問

協力覚書(MOC)を作成していない国の人は特定技能で受け入れられませんか。
受け入れは可能です。出入国在留管理庁は「MOCを作成した国でなければ、特定技能外国人の受入れができないものではありません」と示しており、運用要領にも二国間取決めを作成した国以外の国籍を有する者であっても受け入れることは可能である旨が記載されています。ただし上陸基準省令は、退去強制令書の円滑な執行に協力する国の機関が発行した旅券の所持を求めており、告示によりイラン・イスラム共和国が対象外とされています。
送り出し国側の手続を省略して在留資格の申請だけ進めることはできますか。
できません。上陸基準省令は、申請人が国籍又は住所を有する国又は地域において本邦で行う活動に関連して遵守すべき手続が定められている場合には、当該手続を経ていることを求めています。運用要領でも、協力覚書において遵守すべき手続が定められている場合には当該手続を経ていることが必要とされています。ベトナムの推薦者表やカンボジアの登録証明書のように、在留諸申請の際に本国発行書類の提出が求められる国もあります。
すでに日本に在留している外国人を採用する場合も本国側の手続は必要ですか。
国によって必要です。ベトナムでは駐日ベトナム大使館から推薦者表の承認・発行を受け、在留資格変更許可申請の際に提出します。カンボジアでは日本の受入機関が直接採用した場合でも、認定送出機関を通じて労働職業訓練省に登録証明書の発行を申請する必要があるとされています。インドネシアのSISKOP2MI登録、モンゴルのGOLWSへの雇用契約等の登録、タイの雇用契約書の認証なども、日本在留者を採用する場合の手続として示されています。
フィリピンのMWOでの面接は行政書士や登録支援機関に任せられますか。
任せられません。出入国在留管理庁の資料では、MWOでの面接は受入機関の代表者または委任された従業員が受ける必要があり、コンサルティング業者(行政書士を含む)や登録支援機関が代わって受けることは認められていないとされています。なお、面接に通訳を同席させることは妨げられていないとされています。
送り出し国側の手続にはどのくらいの期間を見込めばよいですか。
国と手続によって異なります。出入国在留管理庁の資料では、フィリピンのMWOの審査は書類に不備がなければ15営業日内、カンボジアの登録証明書の発行は2〜3営業日、駐日バングラデシュ大使館の要求書の認証は約3営業日、ネパールの出国前手続はおおむね10日間程度と示されています。在留資格認定証明書の有効期限は交付日から3か月とされているため、本国側の所要期間を織り込んで日程を組む必要があります。

まとめ

協力覚書(MOC)は、悪質な仲介事業者の排除と情報連携を目的として、日本政府と送出国政府との間で作成される枠組みです。出入国在留管理庁のサイトには、フィリピンからタジキスタンまで17か国が掲載されています。

覚書の有無は受入れの可否を左右しません。掲載がない国の国籍者も受け入れられる一方で、上陸基準省令が「国籍又は住所を有する国又は地域において遵守すべき手続」を経ていることを求めているため、本国側の手続を省略した申請は成り立ちません。イラン・イスラム共和国の国籍者は、旅券に関する基準により受入れ対象から外れます。

国別の差は、ベトナムの推薦者表カンボジアの登録証明書のように在留諸申請へ添付する型、フィリピンのMWO審査・DMW登録のように企業側が事前審査を受ける型、ネパールの海外労働許可証のように本人が出国前に取得する型に整理できます。どの型かで日程上のボトルネックが変わります。

日本国内に在留する人を採用する場合も本国手続が残る国は少なくありません。ベトナム・カンボジア・タイ・インドネシア・モンゴル・ミャンマー・スリランカでは在留資格変更の前後に手続が求められ、ラオスでは技能実習から特定技能への変更に際して一度帰国が必要とされています。本国側の所要日数と在留資格認定証明書の有効期限(交付日から3か月)を突き合わせた逆算が、日程設計の要になります。

TGPは外国人の有料職業紹介を担い、在留資格申請の代理・取次はグループ内の行政書士法人Treeが担当します。国ごとに異なる送り出しルートの設計から受入れ後の支援体制まで、まとめてご相談ください。

本記事は現時点(2026年8月)の出入国在留管理庁の公表資料および運用要領等に基づき、特定技能に関する二国間の協力覚書と送り出し国別の手続について一般的な情報を整理したものです。本国側の手続は相手国政府の判断により変更される場合があり、個別事案への適用は条件により異なります。最新かつ正確な取扱いは出入国在留管理庁の公表資料および専門家にご確認ください。