特定技能外国人の離職防止と定着率向上策
受入れ企業の実践ガイド

特定技能 定着・離職防止 受入れ企業向け 2026年5月1日

「採用してもすぐ辞めてしまう」「他社に引き抜かれてしまった」——特定技能外国人を受け入れている企業から、こうした声が後を絶ちません。採用コストと手続き負担が大きい特定技能において、離職は単なる人員補充の問題ではなく、経営上のリスクです。

一方で、適切な職場環境と支援体制を整えた企業では、在留期限いっぱいまで勤続し、特定技能2号や高度専門職へのキャリアアップを実現する外国人材も増えています。離職率の差を生む要因は何か、そして今すぐ取り組める具体策は何か——本記事では受入れ企業が実践できる離職防止・定着率向上の手法を体系的に解説します。

1. 特定技能外国人の離職実態と主な離職理由

離職実態の概要

出入国在留管理庁が公表している特定技能在留外国人数は2025年末時点で30万人を超え、受入れ分野・企業数ともに拡大が続いています。しかし同時に、転籍(在籍機関変更)を活用した「転職」件数も増加傾向にあります。特定技能1号では同一分野内であれば転職が原則自由であるため、より良い待遇を求めて職場を移る外国人材の動きは今後さらに活発化する見込みです。

製造業や農業分野の支援機関アンケートによれば、入社後1年以内の離職・転籍率が20〜30%に達するケースも報告されています。特に最初の3〜6ヶ月は生活環境の変化と業務習得が重なる「離職リスク最大期」であり、この時期の支援が定着率を大きく左右します。

主な離職理由の分析

離職理由 01
賃金・待遇への不満

「同じ仕事をしているのに日本人より給与が低い」「残業代が正確に支払われない」といった不満が離職の最大要因の一つです。特定技能外国人に対しては、同等業務の日本人と同等以上の報酬を支払う義務がありますが、実態として差異が生じているケースがあります。また、給与明細の読み方を理解していない外国人材が、正しい計算でも「引かれすぎ」と誤解するケースも見られます。

離職理由 02
職場の人間関係・コミュニケーション障壁

日本語能力に差があることで、職場のコミュニケーションから疎外感を感じるケースは多くあります。業務指示が伝わらない、日本人スタッフとの雑談に参加できない、ミスをしたときに指摘の意図が理解できずに萎縮してしまう——こうした積み重ねが離職につながります。特に「雑談・冗談を真剣に受け取った」「叱責のトーンが威圧的に感じられた」という文化的誤解も多数報告されています。

離職理由 03
将来の見通しの不透明さ

特定技能1号の通算5年という在留期間が終わった後、どうなるのかわからないという不安が離職を引き起こします。「この会社にいても将来がない」と感じた時点で、在留期間が残っていても転籍先を探し始めます。特定技能2号への移行要件や昇給・昇格の見通しを明示していない企業では、外国人材が「見切り」をつけるタイミングが早まります。

離職理由 04
生活上の困難・孤立

住居の問題、銀行口座の開設困難、携帯電話の契約、医療機関の受診方法の不明など、来日直後に直面する生活上の障壁が精神的消耗を引き起こします。家族と離れた孤独感や、日本語での行政手続きに対する無力感が積み重なると、「この国では生活できない」という結論に至り、帰国・転籍を選ぶケースも少なくありません。

重要:離職は「予兆」から始まる

離職の大半は突然ではなく、数週間〜数ヶ月前から欠勤増加・コミュニケーション減少・業務意欲低下などの予兆があります。定期的な1on1面談とコンディション確認の仕組みを整えることが、早期察知の鍵です。

2. 離職防止のための職場環境チェックリスト(10項目)

以下のチェックリストは、受入れ企業が自社の状況を棚卸しするための実務ツールです。「できている」「一部できている」「できていない」の3段階で評価し、改善優先度を明確にしてください。

No. チェック項目 確認ポイント
01 同等業務の日本人と同等以上の賃金を支払っているか 賃金台帳・就業規則の確認
02 給与明細の読み方を多言語で説明しているか 入社時の説明資料の有無
03 業務マニュアル・安全指示を母国語または平易な日本語で整備しているか 現場資料の多言語化状況
04 入社後3ヶ月以内に最低1回の個別面談を実施しているか 面談記録の有無
05 日本人スタッフへの異文化理解研修を行っているか 研修実施記録
06 特定技能2号移行・昇給の条件をわかりやすく示しているか キャリアパス資料の整備
07 母語での相談窓口(社内または登録支援機関経由)があるか 相談窓口の周知状況
08 住居・生活インフラ(銀行・携帯・保険)のサポートを入社前後に行っているか 支援記録・同行状況
09 ストレスチェックや体調確認を定期的に実施しているか 実施頻度・記録の確認
10 離職者・転籍者へのヒアリング(退職理由分析)を行っているか 改善反映の仕組み
活用のコツ

「できていない」が3項目以上ある場合は、優先度の高い項目から1〜2ヶ月単位で改善計画を立てましょう。完璧を目指すより「継続して改善していること」を外国人材に伝えることが重要です。

3. コミュニケーション改善策

1on1面談の仕組み化

定着率の高い企業に共通しているのは、上司や担当者による定期的な1on1面談の習慣化です。単なる「業務確認の場」ではなく、本人の体調・気持ち・不安・将来への希望を引き出す場として機能させることが重要です。

面談の頻度は、入社後3ヶ月は月1回以上、その後は2ヶ月に1回程度を目安にしてください。面談前には「今困っていること」「最近楽しかったこと」などの簡単なアンケートをチャットで送っておくと、本人が話しやすくなります。面談内容は簡単なメモで記録し、前回からの変化点を次回に確認する仕組みをつくりましょう。

多言語コミュニケーションツールの活用

現場での指示・連絡には翻訳アプリや多言語対応チャットツールを積極的に活用してください。最近では「DeepL」や「Google翻訳」の精度が向上し、ベトナム語・インドネシア語・ミャンマー語・タガログ語など東南アジア系言語の翻訳も実用レベルに達しています。

特に重要なのは、業務上の「危険情報」「品質基準」「スケジュール変更」を正確に伝えることです。口頭だけでなく、重要指示はチャットツールで文字として送ることで、外国人材が後から確認できる環境を整えてください。緊急の連絡も含め、母語と日本語の両方で送る習慣を現場管理者に根付かせることが効果的です。

相談しやすい文化づくり

「相談できない」環境が離職を加速させます。外国人材が遠慮なく相談できる雰囲気をつくるためには、日本人スタッフ側の意識改革も必要です。具体的には次のような取り組みが効果的です。

同国籍の先輩社員によるメンタリング

同じ国籍・言語の先輩社員が「バディ」として新人外国人材をサポートする制度は、定着率向上に非常に効果的です。既存の外国人社員にとっても「教える役割」が職場へのエンゲージメントを高めます。可能であれば積極的に導入を検討してください。

4. メンタルヘルス・孤立防止

ストレスチェックの実施

労働安全衛生法に基づくストレスチェックは、常時50人以上の労働者を使用する事業場では義務ですが、50人未満の企業でも努力義務として推奨されています。外国人材を含む全従業員を対象に年1回以上実施することで、メンタルヘルスリスクを早期に把握できます。

ストレスチェックの際には、外国人材が母語または平易な日本語で回答できるよう、多言語対応版を用意してください。厚生労働省が提供する「職業性ストレス簡易調査票」は各種言語版が公開されており、活用できます。高ストレス者と判定された場合は、産業医や外部相談窓口への案内を速やかに行ってください。

地域コミュニティとの連携

職場外の人間関係や支援ネットワークの存在が、外国人材の精神的安定に大きく寄与します。受入れ企業として、以下のような地域コミュニティとの連携を積極的に促すことが有効です。

母語での相談窓口の整備

社内または登録支援機関を通じた母語相談窓口は、支援計画上の義務でもあります。しかし「窓口があること」を外国人材が知らないケースが多く、定期的な周知が必要です。

具体的には、給与明細・休憩室・社員証の裏面など目に触れる場所に相談先の連絡先(電話番号・LINEアカウントなど)を母語で記載することを推奨します。また、相談した内容が上司や会社にそのまま伝わることへの不安から相談をためらうケースも多いため、「相談の秘密は守られる」という説明を明示的に行うことが重要です。

まずは無料相談で採用計画を相談する

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5. キャリアパスの見える化

特定技能2号移行の活用

特定技能外国人が「ここで長く働きたい」と思うためには、将来への具体的な展望が必要です。その中心となるのが特定技能2号への移行です。2号では在留期間の更新に上限がなく、配偶者・子との家族滞在も可能となります。永住権取得要件としても活用できるため、日本での長期定住を希望する外国人材にとって非常に魅力的なキャリアゴールです。

受入れ企業としては、特定技能2号の試験要件(分野ごとに異なる)や会社としての支援内容(受験費用補助・勉強時間の確保・教材提供など)を入社時から明確に伝えることが重要です。「この会社で2号を目指せる」という見通しを持てるかどうかが、1号の通算5年間の在留をその企業で全うするかどうかの判断に大きく影響します。

資格取得支援制度の整備

特定技能2号以外にも、業務に関連する資格取得を会社が支援することで、外国人材のモチベーションと定着率を高めることができます。具体的な支援例を以下に示します。

等級制度・昇給ルールの明示

外国人材が最も不満を持つのは、「どうすれば給与が上がるのかわからない」という状況です。日本企業では暗黙の評価基準が多い傾向がありますが、外国人材に対しては評価基準と昇給ルールを文書で明示することが離職防止の基本です。

入社時に「6ヶ月後・1年後・3年後の評価ポイントと想定給与レンジ」を提示できる企業は、同じ待遇水準であっても外国人材の満足度が高い傾向にあります。「頑張れば認められる」「努力が収入に反映される」という感覚が、長期在籍の動機づけになります。

キャリア面談の実施タイミング

入社時・6ヶ月後・1年後・3年後の4タイミングで「キャリア面談」を設定し、本人の希望と会社のニーズを照合することを推奨します。特に1年後面談では「2号取得に向けた計画」を具体的に話し合う機会として活用してください。

6. 生活支援の強化

住居サポート

外国人労働者が住居を探す際、「外国人不可」の物件が多く、保証人の確保も困難なケースが多いのが現実です。受入れ企業として住居支援を行うことは、登録支援機関による支援計画の義務にも含まれており、単なる福利厚生ではなく必須対応です。

企業として用意できる選択肢として、社宅・寮の提供、外国人可の物件を把握している不動産会社の紹介、家賃保証サービスの活用などがあります。住居が安定しないと仕事への集中が妨げられ、離職リスクが高まります。入社前に住居を確保し、引越し当日のサポート(同行・荷物搬入補助)を行う企業は定着率が高い傾向にあります。

銀行口座・携帯電話の開設支援

来日直後の外国人材にとって、銀行口座と携帯電話の契約は最初の大きな壁です。在留カードが新しいため信用情報がなく、審査が通りにくいケースも多々あります。受入れ企業として次のようなサポートが効果的です。

健康保険・年金の丁寧な説明

給与から社会保険料が引かれることへの驚きや不満は、給与明細を初めて受け取った際に多く発生します。「こんなに引かれるとは聞いていなかった」という認識のミスマッチが信頼関係を損なうことがあります。

入社時のオリエンテーションで、健康保険・厚生年金・雇用保険・所得税の各項目について母語または平易な日本語で仕組みと金額の目安を説明することを強く推奨します。「保険証を持てば医療費が安くなる」「退職・帰国時に年金の脱退一時金が受け取れる」などのメリットを具体的に伝えることが重要です。

家族呼び寄せ計画の情報提供

特定技能1号では原則として家族の帯同が認められていませんが、特定技能2号では配偶者・子の家族滞在が可能になります。また、1号の期間中でも配偶者が別の就労資格(技術・人文知識・国際業務等)を持つ場合は来日できます。

「いつになれば家族を呼べるか」という問いは、多くの外国人材が心に持っている重大な関心事です。2号移行後の家族帯同の可能性や、永住権取得後の選択肢について早い段階から情報提供することで、「この会社・日本でのキャリアに価値がある」という認識を高められます。

7. 離職防止の数値目標設定と振り返りKPI

「感覚」で取り組んでいた定着支援を、数値目標と定期レビューで管理する仕組みに昇華させることが、継続的な改善の鍵です。以下に、受入れ企業が設定・追跡すべき主要KPIと目標値の目安を示します。

KPI指標 測定方法 目標値の目安 レビュー頻度
1年定着率 入社後1年時点での在籍率 80%以上 年1回
3年定着率 入社後3年時点での在籍率 60%以上 年1回
面談実施率 対象者のうち定期面談完了割合 100% 四半期
満足度スコア 半期アンケート(5点満点) 4.0以上 半期
相談件数 支援窓口への相談・問い合わせ数 増加傾向を維持 月次
欠勤率 月間欠勤日数÷所定勤務日数 3%未満 月次
2号移行者数 当年度の特定技能2号取得者数 移行可能者の50%以上 年1回

KPI活用の実践ポイント

数値を集めるだけでなく、定期的な振り返りと改善アクションへの接続が重要です。以下のサイクルを推奨します。

  1. 月次:欠勤率・相談件数をモニタリングし、異常値の場合は面談を追加
  2. 四半期:面談実施率を確認し、未実施者へのフォローを実施。現場管理者との情報共有会を開催
  3. 半期:満足度アンケートを実施し、前回比較・改善ポイントを人事部門と現場でレビュー
  4. 年次:1年・3年定着率を算出し、離職者ヒアリング結果と照合して翌年の施策を更新
離職者ヒアリングの重要性

離職・転籍した外国人材に対し、本人の同意を得た上でヒアリングを行うことは非常に重要です。「なぜ転籍したか」という実態は、在職中の面談では得られない生の声を含んでいます。退職後1〜2週間以内に連絡し、5〜10分程度のヒアリングを行う習慣を組織文化として根付かせてください。

8. よくある質問(FAQ)

特定技能外国人の平均勤続年数はどのくらいですか?
在留資格「特定技能1号」の有効期間は通算5年が上限です。しかし実態として、賃金水準や職場環境への不満から1〜2年以内に離職するケースが一定数あります。定着率の高い企業は、入社後半年以内の手厚いオンボーディングと、入社1年・3年時点でのキャリア面談を実施しています。
支援計画に定める定期面談はどのくらいの頻度が適切ですか?
出入国在留管理庁の運用要領では、登録支援機関や受入れ機関が3ヶ月に1回以上の定期面談を行うことが義務付けられています。ただし離職防止の観点では、入社後3ヶ月は毎月、その後は2ヶ月に1回程度が実務上の目安です。本人の状況変化を早期に察知するため、面談記録を残し、前回からの変化点を確認する仕組みが重要です。
特定技能外国人が転職した場合、受入れ機関に何か義務はありますか?
特定技能外国人が転職(在籍機関変更)する場合、受入れ機関は出入国在留管理庁への「特定技能雇用契約に係る届出(終了届)」を提出する義務があります。提出期限は契約終了日から14日以内です。未届けは行政指導の対象になるため、離職・転職が決まった時点で速やかに手続きを進めてください。
特定技能2号に移行できる分野はどれですか?
2024年の制度拡充により、特定技能2号は建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業の11分野(介護を除く)で対象となっています。2号では在留期限の更新が無制限に可能となり、配偶者・子の家族滞在も認められるため、長期定着のための重要なキャリアパスとして積極的に活用することを推奨します。

9. まとめ

特定技能外国人の離職防止と定着率向上は、採用コストの回収という観点だけでなく、外国人材の人生を預かる受入れ企業としての責任という側面も持ちます。本記事で解説した取り組みを整理すると、以下の5つの柱が定着率向上の核心です。

これらを「一度やれば終わり」ではなく、KPIを設定して継続的に改善するPDCAサイクルとして運用することが、3年・5年という長期定着を実現する組織文化の土台になります。

特定技能外国人の採用・定着に取り組む企業の中には、「何から手をつければいいかわからない」という段階から始め、3年後には外国人材が職場のリーダー的存在になっているケースも多くあります。まずは本記事のチェックリストで現状を棚卸しし、改善の第一歩を踏み出してください。TreeGlobalPartnersは採用から定着まで一貫したサポートを提供しています。

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本記事の情報は2026年5月時点の出入国在留管理庁の公開情報・運用要領に基づいています。一般的な情報提供を目的としており、個別の法的アドバイスではありません。ビザ申請・在留資格に関する個別案件は、グループ内の行政書士法人Treeまでお問い合わせください。